大会社の中枢部への挑戦を決意した、一社員のとった行動が意外な展開を生む

短編小説 建の鐘

◇ 第六章 新風蓮

その数日後、再び田畑部長から連絡があり、沢田課長と津山主任に、部長付の応接間で待機しておくようにとの指示があった。「先日津山君から提出された提案書のことで、経過報告を兼ねて、いくつか確認しておきたいことがあって、来て貰った」津山は提案書の評価がどうだったか気にはなっていた。

◇ 第五章 助っ人

津山は作成した提案書と添付書類の文章に、誤字・誤記・脱字・誤植等が無いか、パソコン画面上は勿論、実際に印刷してくまなく一字一句、何度も慎重にチェックし、確認した上で印刷した。そして、部長の指示に従い、A4の茶封筒に入れ、糊付けした上にセロテープを貼り、表に田畑部長殿へとサインペンで書き、横に赤字で開封厳禁と書いた。馬鹿丁寧とはこのことである。津山は自分でも、そこまでしなくてもと自笑ながら、午後の三時頃に沢田課長のデスクに足を運んだ。

◇ 第四章 新潮流

提案書の作成は余念がなかった、忙しい仕事の合間を縫って精力的にパソコンに打ち込んでいった。提案書の中身は、東条物産(株)との営業上の交渉履歴を羅列するようなものである。津山は営業一課から提出された、東条物産(株)関連の営業資料と同行営業した内容とを寸分漏らさず照らし合わせながら、随所に自分の所見を挿入して仕上げていった。特に物流システムの下りは、津山の知り得ている事はほんの一部に過ぎないと思いながらも、間違いや欠落部分が無いように、言葉を選んで慎重に記述していった。

◇ 第三章 バトン

津山は自分が蒔いた種が、場合によっては大きなうねりとなって自社のみならず、業界自体に激震を与えてしまいかねないことを想像し身震いした。事と次第によっては、当然津山の責任問題にも発展しかねない。自分で蒔いた種は自分で刈る。無責任な行動をとる訳にはいかなかった。

◇ 第二章 宝石箱

沢田課長の言っていた二・三日どころか、一週間経っても二週間経っても課長からの声掛けがなかった。東条物産との取引の案件は、座礁に乗り上げたなと津山は推察した。津山のデスクの後方のすぐ近くに課長のデスクはある。その後の経過がどうなっているのか、余程尋ねようかとも思いはしたが、何か事情があっての事だろうと、気にとめないことにした。

◇ 第一章 青い波

津山清太郎は、株式会社愛羅スタイル東京本社の建設資材部の営業管理課主任である。勤務暦十年の三十二歳である。主にビルや住宅等に使用される建設資材の、流通に関する部門の全営業課の管理を担当していた。各営業課は、建材流通問屋や住設流通問屋等に資材の仕入を働き掛ける、いわば会社の売り上げの中枢を担っていた。
 津山は各営業課から提出される売り上げ伝票や月間及び各四半期毎の計画書をチェックし、営業会議の資料を作成する業務等を担当していた。
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