小説 めもるの奇跡 ◇ 第6章 決断 ① 月曜日の朝、甲斐オーナーから電話があった。先週の火曜日の朝、来週時間空けといてね、来週の月曜日、つまり今日電話するからということだった。早川は月曜日か火曜日ならという返事をしておいた。ところが、甲斐オーナーは電話の先で、今週は時間が取れないから来週に延ばしてくれという。 2023.06.14 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ 第5章 疑惑 ② 設計一課の歓迎会や送別会、昇進祝いなどの行事は、大抵は座敷での宴会が多かった。しかし今夜の送別会は会社の近くのホテルで行われた。会場の入り口のドアは開け放たれていた。幹事の若林がその入り口付近に立っていた。小さな紙袋を持ち、会場に来た社員に、中の紙切れを引くように促していた。 2023.06.14 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ 第5章 疑惑 ① 十時過ぎに、設計一課の若林から送別会の会場が決まった旨の連絡があった。夜になり、早川は今流行の大衆市場という居酒屋で岩田課長と食事をした。テーブルの上に酒のつまみが並びビールを酌み交わした。「課長、私は酒に弱いですから、酔わないうちに、例の後継者の件をお話ししておきたいのですが」 2023.06.14 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ 第4章 意地と野望 早川は国際コンペに向けて精力的に動いた。帰りが深夜になることも度々あった。五階の特別室は熱気でむんむんしていた。早川とスタッフのミーティングが頻繁に行われ、たまに早川の激が飛んだ。データや情報は全てパソコンに打ち込まれ着々と準備が整って行った。予定のスケジュールより幾分速いペースでは進んで入るが、実作業の段階で予期せぬことが起る場合を考えて、早め早めに作業を進めていた。作品の提出まであと半年しかなかった。 2023.06.13 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ 第3章 再会 あれ以来、花岡亜希子からは連絡がなかった。おそらく、会社勤務の都合上、休暇が思うように取れないのかもしれない、と早川は思った。亜希子との時間はたっぷり取れるような手筈は出来ている。早く逢いたい、逢っていろいろ話しをしたいと思っていた。 2023.06.13 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ 第2章 打診 次の日の朝、早川は八時前に出社した。新宿駅の南口から甲州街道を右に歩いて五分。超高層ビルの立ち並ぶ一角のはずれに九階建のビルがある。環太平洋建設株式会社の社屋である。 環太平洋建設株式会社は、国内の太平洋ベルト地帯に、北は東北仙台から南は鹿児島までの営業エリアに三十四の支店・営業所を構え、従業員約三千五百名を擁する準大手建設会社である。 2023.06.13 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ 第1章 帰郷 横浜市港北区の大倉山駅で東横線の電車に乗り、終点の渋谷駅で山手線に乗り換えて、東京駅の改札口で切符が無造作に機械に吸い込まれた時、早川の腕時計の針は十八時を少し回っていた。 折りしもラッシュアワーと重なり、東京駅は異様なほどの混雑を見せていた。いや、これが日常のことなのだが、早川悟はその度に異様さを感ずるのである。 2023.06.13 2024.02.16 小説 めもるの奇跡
小説 めもるの奇跡 ◇ まえがき ある小さな町で生まれた一人の男の子は、三歳の時、原因不明の病気にかかってしまった。広くもない部屋の古ぼけた畳に、赤茶けたタイヤのチューブが置かれていた。そのチューブを覆うようにして座布団が置かれ、その上で男の子は辛うじて息をしていた。 2023.06.13 2024.02.16 小説 めもるの奇跡