・同じジャンルの曲をランダムしてはいけない
・パット・メセニーは予測不能のジャズサウンドを奏でる
・違ったジャンルの曲をランダムに聴こう
・エリック・クラプトンのおススメの一曲はコレ
・ハーモニーを司るリズム楽器
・リズム楽器が演奏全てを支配する
・一緒に龍神の滝に打たれに行く?
・長いスパンで人生を考る強い信念
・例え一億人に一人でも良いから人の支えになれれば
「君が主に楽しんでいる音楽のジャンルは?」
「殆ど毎日のようにJ-Popを聴いてる。あなたは?」
「主としてジャズだったけど、最近は何でもござれって感じだね」
同じジャンルの曲をランダムしてはいけない
「世の中に出回ってる音楽の全て」
「全て?」
「ちょっと言い方が悪かったかな、通常言われる音楽と言うより音そのものの意味」
「音そのものって?」
「例えば、小鳥のさえずりとか、小川のせせらぎとか、バイクの走る音とか」
「そうなんだ」
「例えば今、作詞作曲したから聞いてください。目を閉じてイメージしてみて」
「作詞作曲?」
「小川と言う楽器が、せせらぎを奏でていた、そこに遠くで鶯がさえずり出した」
「まあ、春の訪れ」
「そこに、人間の親子がボーカルした」
「親子のボーカル?」
「『おかあさん遠くで鶯が鳴いてるよ』『あらほんとね、もうすぐ春ね』」
「……」
「そのボーカルを聞いてたカエルが、負けじとばかりに、大声でボーカルした」
「まあ、カエルの登場?」
「そこに、小川で泳いでいた魚が、思い切り飛び跳ねて笑った」
「魚まで?」
「小さな森中に合唱が、エコーとなっていつまでも鳴り響いていた。……どう?」
「素晴らしいわね!まさに音楽よね」
「自然の音は立派な音楽だという所以でした」
「なるほどねえ~」
「それらを音楽に乗せて聴くと言った方がいいかな」
「例えばバイクの走る音を音楽に乗せるってことは、編集ソフトか何かで合成?」
「いや、そんな面倒くさいことはしない。またも誤解するような言い方だったなあ」
「何だか、何言ってるのかさっぱり分らない」
「ごめんごめん、もとい、そういう音源を探してMP3プレーヤーに取り込んでいる」
「あ、そういう意味ね。最初からそう言えば良いのに、回りくどい言い方するから」
「でした、訂正してお詫び申し上げます」
「フフ、で、その音源はどこから取り込んでるの?」
「ラジオとテレビ」
「CDとかDVDからは?あるいは音楽サイトからダウンロードするとかは?」
「お金の掛る事は一切しない。そんな、ゆとりのない生活を余儀なくされています」
「じゃあ、好きなジャズ以外に、クラシック音楽とか民族音楽とかも含む訳ね?」
「もちろん、民謡も童謡もあるよ。それに今はまってるのは台詞入りの映画音楽」
「セリフ入りの映画音楽?例えば?」
「刑事コロンボ」
「えっ、それって殆どセリフばっかりじゃ?」
「うん、だね、音楽は取ってつけたみたいな感じだけど、気に入ってる」
「へえ~、そんな何処がいいの?」
「犯人を逮捕するくだりを録音する」
「物好きだ事」
「その場面がMP3プレーヤーから流れると、映画のシーンが鮮やかに蘇ってくる」
「その他には?」
「邦画もそうだね。同じようにセリフを含んだ音楽を録音してる」
「刑事コロンボは日本語吹替えだし、邦画はもともと日本語だし、それで?」
「いや、洋画とか西部劇も、好きな場面を中心に録音する」
「えっ、ということは、英語に堪能ってこと?外国語分るの?」
「アハ、残念ながら全くの外国語音痴です」
「じゃ、何で外国語のセリフ入りの場面を録音する訳?」
「外国語のセリフも音楽だから」
「セリフも音楽?」
「そう、セリフもさっき言ったように、小鳥のさえずりとかと同じ音楽と思ってる」
「へえ~、そうなんだ」
「良く考えてごらん。小鳥のさえずりにしても、小川のせせらぎも外国語と同じ」
「ん?……なるほど、うん、なるほど、そう言われればそうかも知れない」
「だろ、言ってみれば意味不明の言葉。外国語も同じじゃない?」
「取って付けたような屁理屈に聞こえるけど、一理あるかも」
「セリフの話は置いといて、じゃさ、洋楽は聴かない?」
「もちろん聴くわよ」
「ボーカルは全部外国語だろ?意味が分って聴いてる訳?」
「残念だけど、意味を分ってては聴いてないわね。メロの一種の類よね」
「それって、外国語のセリフ入りの映画音楽と同じじゃない?」
「あ、そう言われればそうよね。なるほど、そんなこと考えたこともないわね」
「最近では J-ポップなんかでも、外国語をちりばめた歌詞が結構多いと思わない?」
「ある、ある。意味は分からないけど、やっぱり、小鳥のさえずりと同じね?」
「だろ?」
「今、MP3プレーヤーには何曲くらい録音してあるの?」
「やっと700曲くらいになった。予定の半分くらいだね」
「それでも結構多いと思うけど、ラジオとテレビからどうやって録音するの?」
「簡単だよ。たぶん誰でもやっていることだと思う。超簡単」
「私はそんな事やった事ないから全然分らない。どうやるの?教えて」
「うんいいよ。後日じっくりと教えてあげる。結構楽しいよ」
「お金を掛けずに、何かをやる時って楽しいものよね」
「そそ、型にはまらない楽しみ方が出来るから尚更だね」
「ちょっと聞いてもいい?」
「うん、何?」
「MP3プレーヤーから流れてくる音楽は、ランダムに流れてくる訳でしょ?」
「うん、だよ。そのように設定してる」
「ジャズが流れて来たかと思うと、次はクラシックとか民謡とか歌謡曲とか?」
「うん、だよ。面白いだろ?」
「でも、普通ジャズ好きな人はジャズばっかり録音する筈だけど、どうして?」
「どうして『何でもかんでも録音するの?』って言いたそうな顔だね」
「だって、普通とちょっと変わってるから。どうしてなのか理由を聞きたい」
▼ パット・メセニーは予測不能のジャズサウンドを奏でる ▼
「待ってました。良くぞ申しました。これには深い訳があるのであります」
「あら、ヤダ、言わなきゃ良かった。また、長々と屁理屈な講釈が始まりそう」
「君はパット・メセニーという名のギタリストの曲聞いたことある?」
「ほら、来た来た。見たことも聞いたこともない。それがどうしたの?」
「俺も全然知らなかったんだけど、実はこの音楽を聴いた事がきっかけなんだよ」
「そうなんだ、続けて」
「ある時、偶然テレビ番組を見てたら、パット・メセニーのライブ番組を見つけた」
「日本公演のライブ?」
「いや、アメリカニューヨークのソニーホールでのライブ」
「何と言うバンド?」
「Side-Eye(サイドアイ)と言うプロジェクト」
「フルバンドと言うかビッグバンド?」
「いや、ギターとドラムとピアノとキーボードのシンプルなバンドだった」
「うん」
「全然知らない名だし、録画するのを止めようかと思ったけど、何故か気になって」
「そんなこと良くあるわよね」
「ま、つまらない番組だったら削除してしまえば良いことだしと、軽い気持ちで」
「録画した訳ね。で、録画を見てどうだったの?」
「冒頭から流れる曲を聴いて、危なく削除するところだった」
「パット・メセニーがパッとしなかった訳だ。削除を躊躇した何かがあったの?」
「うん、今まで聞いた音楽の常識を覆すと言うと聞こえは良いけど、メチャクチャ」
「メチャクチャ?パット・メチャクチャニー?」
「何と表現したらいいかなあ『良くぞこんな音楽が作れるものだ』が最初の印象」
「それからどうしたの?」
「ところが、何か違うと思いながら、何故か聴き続けてみて、オヤッと思ったんだ」
「ええ」
「まず、さっき言ったメチャクチャを取り消さなきゃ怒られる」
「だったら、パット・メチャクチャニーも取り消します」
「あはは、素直でよろしい!」
「聴き続けてみて、何かを感じたのね?」
「そうなんだ。何だろう、表現が見つからない」
「あら、まあ」
「聴いてる内に、凄く居心地が良いって言うか、安らぐって言うか、適切語がない」
「……」
「とても不思議な感じ。これまでに感じたことのない新鮮な感覚が全身を覆った」
「へえ~、それで?」
「90分の番組だけど」
「ええ」
「気が付いてみたら、全曲夢中で聴いている自分に気が付いた。我ながら驚いた」
「音楽の中に何かが仕込まれていたのかしら」
「お~、いいところに気が付いたね。同じことを考えたんだ。これって何だろうと」
「それで?」
「最初に考えたのは、ま、物珍しさからくる感覚が興味を注いだ」
「なるほど、そうかもしれないわね」
「で、それから何回も通しで聴いてみても、同じ感じなんだ」
「あ、そうなんだ。ということは?」
「だから、物珍しさからじゃない、とはっきり言える。じゃ何なんだとなる」
「そうよね、何だったの?」
「はっきりしたことが分れば苦労しないよ。でも、ハッと、もしかしたらと」
「何かに思い当った?」
「パット・メセニーはジャズ奏者なんだけど、同じジャズでも何かが違う」
「ジャズファンのあなたでもそう感じる」
「確かに外れた旋律のように聞こえるけど、そこに巧みに仕組まれた異次元の旋律」
「初めて聞く人には狂った旋律そのものだけど、凄いハイレベルの世界という事?」
「インタビューで女性も言っていたけど、正に予測不能の展開のジャズサウンド」
「お化けのサウンド?」
「あは、もっと良い表現ない?けど、得体のしれない音楽、そう言っても良いかも」
「……」
「ジャズファンと言っても、俺は専門家ではないから、いい加減な考えなんだけど」
「……」
「『もしかしたらこれじゃないか』と、ハッと思いついた事が脳を揺さぶった……」
「パッと何かが浮かんだんだ。何々?早く言って……」
「はっきりと『もうこれしか考えようがない』と確信した」
「それは?」
「それは『俺の脳が欲している曲なんだ』と」
「えっ、何よそれ。……脳が欲している曲?意味不明。あきれた、馬鹿馬鹿しい」
「あはは、さんざん勿体ぶった挙句にってか?」
「そうよ、そんな屁理屈、もう聞きたくない。パット・メサナイニー」
「あはは、そう来るだろうと思った。俺ですら言いたくなる」
▼ 違ったジャンルの曲をランダムに聴こう ▼
「でも一応、能書きでも良いから聞いておきたい」
「ん?何を?」
「だから、その『脳が欲している曲』だと思った根拠」
「根拠?根拠なんてないよ。ただ思っただけだから。しかし、理由付けは出来る」
「じゃあ、その理由付けでも良いから言ってみて」
「普通さ、いくら好きな曲でも、何回も聴いていると飽きることない?」
「うん誰でもそうじゃない?飽きると言うより、たまには他の曲聴きたいとなるわ」
「だろう?そこなんだよ、脳も同じことを感じているんだよ」
「えっ、どういうこと?脳も?」
「脳が言う『今の曲もいいけど、違ったジャンルの曲はないのかい?』とね」
「言うと言うより、その脳の思いをあなたに伝えてくる訳ね」
「そそ、そういう事さ。別な、例えば民謡とか童謡を脳に聴かせる」
「いよいよ、何か、こっちの頭までがおかしくなって来そうな展開だわね」
「そうすると脳が言う『いいぞいいぞ、活性化してきたぞ』と笑みを浮かべる」
「フフ、勝手に続けて、もう、腕組みして聞いてあげるから」
「ありがとう、で、この脳の言う活性化の意味を君はどう思う?」
「オーノー、ノーサンキュー。モ- ドウデモイイコトデショ? コタエルキニナラナイ」
「俺はこれぞまさしく、人間の健康体を造る究極のメソッドと位置付けた」
「ちょっとちょっと、勝手に講釈するのはいいけど、飛躍しすぎない?」
「そうかなあ、ノーベル賞まではいかないけど、凄い新発見だと思うけどなあ」
「ああ、もう付き合いきれない。……で、それから?……アレ! ツキアッテル」
「つまり、これが俺の言う『世の中に出回ってる音楽の全てを収録する』意味合い」
「何となく理解できた」
「全てと言っても、全てのジャンルの、好きな曲の全てと言い換えた方が良いかな」
「なるほど、一応お伺い致しましたけど、実際の感じはどうなの?」
「良くぞ聞いてくれました。バッチリ!ランダムだから、今度は何が来る?」
「ジャズ?クラシック?民謡?コロンボ?童謡?映画音楽?……あはは、面白い」
「だろ?音楽ジャンルが切り替わる度に、脳が手を叩けと命令して喜んでる」
「ん?それって面白い。って言うか、何だか新感覚だわ」
「そして脳は体内の12個の臓器に命令する。『みんな元気を出して活発に行こう』」
「12個の臓器?心臓とか腎臓とかの?12個もあるかしら」
「うん、あるある。そう思いなさい。命令を受けた各臓器は一斉に活発になり」
「健康体になる?それがほんとだったら、音楽の持つパワーって凄いわね」
「だろ?もしかしたら、音楽によって、脳をコントロールすることも可能かもよ」
「へえ~、凄いことを思いつくのね。ここまで聞いて、やっと分りかけてきた」
「屁理屈もこのレベルまで来ると、本物って言うか一流だね」
「フフ、本人がそれを言っちゃあおしまいよ」
「あはは、だね」
「私もパット・メセニーの演奏する曲、聴いてみたくなってきた」
「だね、聴いてどう感ずるか、是非意見を聞きたいね」
「何処で探せばいいかしら?ユーチューブ?」
「多分CDはあるだろうけど、お金を出す程の事もないし、調べて見たら?」
「そうね、そうするわ。ところで、作曲はパット・メセニーなの?」
「そのようだよ。素人の俺が言うのもなんだけど、ギターテクニックは普通だね」
「ん?」
「ピアノとキーボードはジェイムズ・フランシーズ、ドラムはマーカス・ギルモア」
「うん?全然知らない」
「二人のテクニックは凄いね。驚いたね。あそこまでなると究テクって感じ」
「究テクって、究極のテクニックってこと?」
「そう、さすがプロ中のプロって言われるだけのことはあるね」
「そうなんだ」
「知らなかったけど、日本にも相当多くのファンがいるみたいだね」
「あ、そうなの?そんなヘンテコな音楽、ゴメンナサイ、なのに?」
「分る人には分るんだね。その意味では俺なんかド素人もいいとこだね」
「思い知らされた?」
「だね。もっと勉強しなくっちゃ」
▼ エリック・クラプトンのおススメの一曲はコレ ▼
「あの~、ついでで申し訳ないんですけど」
「おや、改まって何?」
「あなたが今まで聴いてきた音楽の中で、私にお勧めの一曲があるとしたら、何?」
「オススメの一曲ねえ、そうだなあ、一杯あるけど、J-ポップ系?、ロック系?」
「こだわらない、とにかく、何でも良いからお勧めの一曲」
「じゃあ、エリック・クラプトンのワンダフル・ツウナイトなんかはいいと思う」
「どんな曲?」
「とてもロマンチックな曲で、エリック・クラプトンの中では一番好きな曲」
「ありがとう。一度聞いてみる」
「取り敢えずユーチューブで聴いてみたら?多分気に入ると思うよ」
「はい、そうする」
「エリック・クラプトンはいい曲を一杯作ってるよ。レイラなんかもいいよ」
「はい、ありがとう」
「聞けば分かると思うけど、エリック・クラプトンのギターテクニックは凄いよ」
「そうなの?」
「さすがギターの神様と言われるだけの事はあるね。驚嘆の世界!ま、聞けば分る」
「も一つ、今ちょっと思ったことで質問があるんだけど、聞いてくれる?」
「ん?なに?」
「先程から脳の話が出てるけど、脳には記憶を貯蔵してる所があるんでしょ?」
「記憶を貯蔵?うん、脳のどこの部分かははっきりとは知らないけど、多分ね」
「耳から入ってくる音楽は、全て脳に蓄積されているってことでしょ?」
「多分そうだよね。あるジャズが流れてくると『あ、これは昨日も聴いたなあ』」
「散歩中の行進曲だと『はい、リズムに乗って軽快に歩きなさい』と命令が来る」
「多分ね」
「日本人の脳には日本語が蓄積されているから、日本語が話せるのよね」
「うん、そう思う」
「例えばイギリス人だと、脳に英語が蓄積されているから、英語がすらすらと出る」
「うん、多分ね」
「そこで質問です。だったら、苦手の英語を克服するために、脳を入れ替えたら?」
「オイオイ、脳を入れ替える?」
「はい、英国人の脳と私の脳を手術して入れ替えたら、私は英語がペラペラに?」
「ほー驚いたね。奇抜な発想だね。どうだろうね、どうなるだろうか。興味あるね」
「でしょう?英語が苦手な私には、その手はいい方法だと思うけどなあ」
「手術費がバカにならないよさ」
「50万円位なら何とかなるから出来ないかなあ。だったら手術を受けてもいいけど」
「一度病院で聞いてみたら?」
「うん、そうする」
「ところで脳を交換したら、日本語が話せなくなる可能性があるけど、いいの?」
「あら、ヤダ。そうよね。私って馬鹿だわねえ。日本人じゃなくなる?……嫌だわ」
「ったく何を考えてんだか。あはは、だんだん俺に似てきた。あははは、可笑しい」
「下手な考え休むに似たりだったわね」
▼ ハーモニーを司るリズム楽器 ▼
「いつだったか友達に聞いたけど、あなたはジャズバンドの一員になってるの?」
「バンドと言うには程遠いね。地域のジャズ同好会でプロではない」
「あ、そうなんだ。何と言う楽団名なの?」
「楽団名? M・グリーンロードと言うけど」
「M・グリーンロード?何だか自然保護団体みたいな楽団名ね」
「うん、それと、まんざら関係ないことはないけどね」
「Mってどういう意味なの?」
「もっとのM」
「えっ『もっと緑を増やしましょう』とかの意味?」
「そのようだね。詳しい事知りたけりゃバンドマスターに聞いて、俺は知らない」
「M・グリーンロードねえ」
「それがどうかしたの?」
「やっぱりね、友達が興奮したように言ってたわよ」
「何て?」
「ジャズの演奏を聴きに行ったんですって」
「うん」
「髭のベーシストが、凄くカッコ良かったって言ってたけど、あなたのこと?」
「えっ、違うだろう。髭を生やしたベーシストなんて、俺以外にもいるよ」
「だって楽団名聞いたら、M・グリーンロードって言ってたわよ」
「だったら、俺の事だけど、買い被りもいいとこだね」
「私、友達から聞いて、少し焼もち焼いちゃった」
「その友達ってジャズファンなのかな?」
「そうでもないみたい。その人の友達にジャズキチがいて、誘われたみたい」
「そういう事か、初めての場合、誰でも雰囲気的にカッコよく見えるもんだよ」
「私は友達の言うの分る気がする。あの、今度はいつあるの?演奏会」
「近いうちにある予定だけど、どうして?」
「私も聴きに行きたくなった」
「あはは、よせよ、君がいることが分ったら、絶対ミスってしまう」
「フフ、ご謙遜を。友達が言ってたわよ、上手だって」
「上手ってか、やっぱりまだそのレベルなんだ。やっぱ、来て欲しくないなあ」
「フフ、余計に行きたくなった。日程決まったら教えてね」
「えっ、ん?……ウン ダケド オシエタクナイナア」
「楽器はウッドベース?」
「いや、ウッドベースをやりたかったけど、高くて手が出なかった。エレキベース」
「給料が安いから?」
「安いねえ、とてもじゃないけど、ウッドベースは買えなかった」
「そのバンドに入るきっかけって何かあったの?」
「うん、俺の友人で、別な楽団でトランペットを担当してる奴がいて」
「へえ~、トランペット、いいわねえ」
「その楽団は、セミプロの位置付けと言った方がいいかな」
「うん」
「社会人バンドでもトップクラスのバンドで、彼はそこの一員なんだ」
「カッコいい!」
「彼とは良く飲みに行ったりして、結構気の合う仲なんだよ」
「うんうん」
「有名なプロのバンドの演奏会に、良く連れて行ってもらう」
「なるほど」
「彼は余計なことは一切言わない男でね。そこが俺は気に入ってるんだけどね」
「うんうん、その気持ち良く分る」
「音楽に余計な色は付けない、感じたそのままを、身体中の細胞で受け入れる」
「感じたままを受けいれて、自分なりに楽しむってことね。ステキねえ~」
「だよなあ~」
「その友人のバンド演奏は?」
「うん、良く聴きに行くんだけど、何とまあ、カッコいいたらありゃしない」
「うんうん、分かる分かる」
「舞台の中央に出てきて、スポットライトを浴びてトランペットソロを奏でる姿に」
「しびれてしまったんだ」
「そうなんだよ、その姿を見て、俺もああなりたいなあと強く思ったんだよ」
「その気持ち良く分る」
「で、彼にその旨を伝えたら、さっきのバンドを紹介してくれたんだ」
「あ、そうなんだ。それまで何か楽器を経験したことはあったの?」
「あはは、恥ずかしい話、全くなかった。少年時代にハーモニカを吹いた程度」
「ああ、それじゃ、舞台の彼の姿を見て、ほぼ衝動的にその気になった?」
「うん。あはは、身の程知らずもいいとこだね」
「で、それから?」
「紹介されたバンドは、以前、その友人が所属していたバンドだったみたいなんだ」
「そうなんだ、その人はそこで努力して、鍛えられて、セミプロになったって訳だ」
「だね。ルックスも良いし、なるべくしてなった素養を備えていたんだろうね」
「わ~、ステキ!」
「どうしてベースの担当になったの?」
「好きで担当になったんじゃないんだ」
「えっ、どういうこと?」
「たまたま、ベースを担当していた人が、病気で長期入院を余儀なくされて」
「空きが出た?」
「そうなんだよ、やってくれないかとね」
「そう言われても、全然経験のないあなただもの、引き受ける事出来ないでしょ?」
「だね。それに俺はフルートをやりたかったから、その旨をマスターに話したら」
「バンドマスターね。で?」
「今のところフルートは間に合ってる。増員してもいいけど、ベースのことも頭に」
「入れといてくれと言われたんだ」
「そう。バンドマスターの顔に書いてあった。入団を頼まれた以上仕方ないなあ」
「それはそうでしょうよ。大抵の場合、経験のある人が門をたたくんでしょ?」
「俺のバカさ加減を、マスターは腹では笑っていたかもね」
「このバカ、やれるもんならやってみろって?」
「ま、多分、そんなことだろうね」
「で、どうしたの?」
「俺もこうなったら引き下がる訳にはいかない。半年間の時間を貰ったから」
「えっ、半年後にもう一度来い、その時考えるってことなの?」
「そういう事みたいだった。友人も俺の肩を叩いてニコッと笑った。そして言った」
「気になる、何と言ったの」
「自分の顔を指差して『同じだ』って一言。元々寡黙な友人だから、それだけ」
「ふ~ん」
「それを聞いて、俺の胸の奥底で、身体中を激しく震わせるような稲妻が走った」
「……」
「えっ、今やスポットライトを浴びているこの友人と同じ?……お、そうなんだ」
「なるほど、凄い励ましの言葉だったんだ。やるねぇ友人さん。たった一言が全て」
「俺のやる気に火が付いた。今に見てろと思った」
「それからどうしたの?」
「折角世話してくれた友人の顔に泥を塗る訳にはいかない。そればっかり考えた」
「手始めに何から始めたのか知りたい」
「その場で友人と別れた後、銀座の有名な楽器店に、車ですっ飛んで行った」
「まあ、気が早い。居ても立っても居られない気持だったんだ」
「楽器店に飛び込んで、店員のアドバイスを聞きながら、フルートを買った」
「えっ、ベースじゃないの?」
「どうしてもフルートをやりたかったからね。ベースのことは頭になかった」
「まさか、衝動買い?」
「ったく衝動買いというのは良く聞くけど、アハ、目も当てられないバカだな」
「同感」
「でもやりたくて仕方なかったからねえ、フルート」
「見境なく買ってしまったんだ」
▼ リズム楽器が演奏全てを支配する ▼
「会計を済ませて、ふと、ある思いがよぎった」
「どういう思い?」
「楽器店の店員だったら、プロを含めていろいろなプレーヤーと接してる筈だから」
「うんうん、そうよね。この際だから何か役立つ情報を得ようと?」
「そうなんだよ、で、店員に相談があるからと言って、時間を割いてもらって」
「いろいろ聞いたんだ。どんなこと聞いたの」
「事情を話して『あなたが俺の立場だったらどの楽器を選ぶ?』と尋ねた」
「フルートを買った後でそんなこと尋ねる?バカみたい」
「みたいじゃなくて、結果的にバカだった」
「フフ、面白い。どういう事か聞かない訳にはいかないわね」
「俺の質問に店員はどう答えたと思う?」
「当然でしょ?『お買いになったフルートがいいと思いますけど』と?」
「それが全く違うんだよ。『私だったらベースにしますね』だって」
「なるほど、店員さんの言った意味を考察しますと、二つ考えられますね」
「考察と来たか、二つって?」
「まず一つは、単に店員がベース好きだという事、もう一つは店の売上に貢献」
「うん、一つ目は分るけど、二つ目はベースも買わせる気だと言う訳?」
「そう、どっちか当ってるでしょ?」
「二つともブーだね」
「あら、違うの?」
「店員が言うには、フルートはメロディー楽器で、ベースはリズム楽器だって」
「うん、それで?」
「店員が俺に尋ねてきた『バンドで一番重要なことは何だと思いますか?』」
「一番重要なこと?何でしょうね」
「俺も考えたことのない質問に、言葉が詰まってしまって、答えられなかった」
「店員の答えは?」
「『リズム楽器が演奏全てを支配しないと、陳腐な演奏になってしまう』」
「へえ~、そうなの?驚いたわ。プロの世界ではそうなのかしら」
「だからベースがお勧めだ、と言いたかったんだと思う」
「ちゃんとした意味があったんだ」
「店員は俺の立場から判断して、そういうアドバイスをしてくれたんだと思う」
「なるほど、色々な人を見て来てる人ならではのアドバイスだったのかもね」
「だよね、『断然ベースにすべきだ』と言ってると、俺は受け止めたんだ」
「なるほどねえ~、その道その道の世界観だわねえ」
「リズム楽器にはドラムもあるけど『ベースは魅力ある楽器ですよ』と言われた」
「言われて、フルートを返品して、ベースを買うことにしたの?」
「いや、店員の有り難いアドバイスに、お礼をしたい気持ちになって」
「えっ、まさか両方買ってしまったって言わないわよね」
「いや、そこで暫らく考えた。アドバイスはアドバイスとして受け止めて」
「じゃ、その場では買わなかった?」
「うん、お礼もそこそこに、フルートのケースを持って外に出て」
「何だか、その先が読めそう」
「急いで近くの駐車場に止めていた車に飛び乗り、一路秋葉原に直行」
「呆れた、フルートは後ろの座席に放り投げて?」
「どうぞ、どうぞ、遠慮はいりませんよ、笑ってください」
「呆れて、笑えもしない。で、その先はどうなったの?」
「これから先が肝心要の話になるんだけど、話が長くなるんだよなあ」
「……」
「だから、関連にした記事を書いてあるから、そちらを見てくれる?」
「関連にした記事?」
「エッセイじゃなくて、エッセイ風な記事だけどね。その後の事がいろいろとね」
「あ、そうなんだ。アドレスは?」
「『エレキベースを演奏したくて』っていうタイトル」
「あい、分りました。ちょっと待って、今、見てみる」
「…………」
「なるほど、結果的には夢が実現できてハッピーだけど、う~ん」
「バカさ加減も、こうなると本物だろ?」
「結構高い買い物と書いてあるけど、安給料のあなたが随分と思い切ったわね」
「あ~あ、それを言われると、またバカ扱いされそうだな。毎月苦労してる」
▼ 一緒に龍神の滝に打たれに行く? ▼
「後先考えないで買うバカだから出来たことね」
「そういうのを『一途バカ』とか『衝動バカ』と言うんだよ。知ってる?」
「適当に言い訳がましく良く言うわね。も一度言いたい、あなたってバカねえ」
「薬持ってない?バカにつける薬」
「あるわよ。龍神の滝にでも打たれて来たら?」
「君も飽きもせずこんなバカの話に付き合って、疲れない?」
「ゼンゼン、それより結構面白い話だったわよ。それにバカげた話ばっかりで」
「ん?」
「私までバカになってしまいそう」
「あはは、君もついでに、俺と一緒に龍神の滝に打たれに行く?」
「あら、いいわね!」
「あはは、それは楽しみだ。うん、行こう」
「その笑いは、何か魂胆がありそうな笑いね」
「滝に打たれる時、どういう格好で打たれるか知ってる?」
「えっ、知ってる訳ないでしょ?」
「薄い白い行衣に着替えて、滝に打たれるんだそうだよ」
「あ、そうなんだ」
「だから、滝に打たれたら、行衣が肌にぴったりくっ付いて、身体のデコボコ」
「デコボコ?凹凸?もっと良い表現ないの?」
「身体の曲線がくっきりと表れる」
「何よ、私の身体をジッと見て、……何かいやらしいこと想像してない?」
「あは、これが想像せずにいられる?君のそのふくよかな胸の線、いいね、いいね」
「まあ、呆れた。そんな不純なこと考えながら打たれたら、罰が当たるかもよ」
「そっか、龍の神様に?見たらダメ、って目が見えなくなったりして?」
「でも、あなたの考えは少し甘いような気もするなあ」
「どうして?」
「滝に打たれるって、想像しただけでも寒気がする」
「ん?」
「だって、滝って凄く冷たくて、激しく打たれるんじゃないの?」
「うん、経験した事ないから分らないけど、多分そうだろうね」
「だったら、さっきみたいな悠長なこと言っておれないんじゃない?」
「ん?」
「全身が凍えそうで、何もかも縮んでしまいそうだわよ」
「えっ、何もかも縮む?」
「何よ、下向いて、どこ見てるの?」
「あ、見てた?……いや、何もかも縮むを考えてた」
「フフ、そんなの考えなくてもいいわよ、バカねえ」
「あはは、そう言いながら、自分も目のやり場に困ってない?」
「フフ、あなたってほんとに憎み切れないバカね。デモ ソンナトコロガ スキヨ」
「ハイ」
「でも、全身が凍えるなんて、何だか行きたくなくなった」
「だな、止める?」
「でも、実際にどういう風なのか見てみたい気もするわ」
「じゃ、参考の為に、ドライブがてら行くだけ行ってみる?」
「そうね、そうしましょう」
「決まりっ!」
「ちょっと気になってることがあるんだけど、聞いてもいい?」
「ん?何?」
「例の銀座の楽器店の店員さんが言ってたこと」
「ん?」
「ほら『リズム楽器が演奏全てを支配しないと、陳腐な演奏になってしまう』って」
「うんうん、そうだったね」
「どうなの、実際に楽団で演奏してみての感じは」
「あ、今思い出した。例の友人のトランペッターさ」
「あ、はいはい」
「彼も同じようなことを言ってて、その銀座の店員のことを誉めてたぜ」
「やっぱりそうなんだ。じゃ、ベストチョイスだったって訳ね」
「実際に演奏してて、バンドには、ドラムとベースは不可欠だという事を感じた」
「それはそうでしょうけど、『演奏全てを支配してる』って感じなの?」
「う~ん、どの楽器も必要不可欠だと思うけど、友人がこんなことを言ってた」
「うん、なんて?」
「メロディー担当の演奏者にとって、リズムが狂うと最悪だ、演奏にならない」
「それが答えね、なるほどねえ」
「『メロが少々外れても気にならないけど、リズムは絶対に正確でないと』って」
「それが店員さんの言う『演奏全てを支配』と言う意味だったのね。奥が深い」
「楽団の編成によっては、リズム楽器は必要ない場合もあるかもしれないけど」
「多くの場合と言うか殆どの場合と言った方が良いわね、リズム楽器は外せない」
「少々地味な存在に見えるけど、それだけ重要な位置付けだってことだね」
「メロディーとリズムがばっちりかみ合うことで、素晴らしい世界が生まれる」
「プロの世界では、当たり前のことだけど、そういう事が言えそうだね」
「リズミカルにってよく言うけど、なんか関係ありそうな言葉よね」
▼ 長いスパンで人生を考る強い信念 ▼
「関連した事って言うか、ちょっと面白い話があるんだよ」
「うん」
「かの友人のトラペッターが俺に『良い選択だったな』と言ったんだけど」
「ん?ベースに決めた時の事ね」
「そこで俺は彼に、少々意地悪な質問をしてみたんだ」
「どんな?」
「『俺もトランペットにすれば良かったかなあ』ってね」
「うん、そしたら?」
「『それは困るなあ』だって」
「えっ、何で、何で困るの?」
「『君が俺のライバルになると、俺の出番がなくなる』だってよ。嬉しかったなあ」
「えっ、ライバル?あはは、笑える!」
「だよな、いま、その時の彼の実に優しい眼差しを思い出した」
「逆立ちしても絶対にありえない事を、サラッと言うところが素晴らしいわね」
「さすがだな。やはり何事もトップになる人の考えは、俺みたいな凡人とは違う」
「そのようね」
「彼の偉い所がもう一つあるよ」
「どういう所?」
「会社勤めをしながら、バンドの一員を貫き通している点だね」
「それがどうして偉いの?」
「彼はかなりの腕前だから、上のクラスのプロのバンドから誘いがあるらしいんだ」
「へえ~、スカウトね?」
「そうなんだ、だけど彼は絶対に首を縦に振らない。断り続けている」
「何で?上のクラスで、スポットライト浴びたほうが良いと思うけど」
「彼が言うには、名声よりも、人生そのものの価値の方がはるかに大切だとね」
「えっ、どういうこと?」
「バンドマンだけでは飯は食っていけないという事さ」
「あら、そうなんだ。そんなもんなの?」
「華やかそうなバンドの裏では、色々な人間模様があるみたいだよ」
「芸能界でもいろいろあるって聞くわね」
「彼はあまり詳しいことは言いたがらないけど、だいたい想像出来る」
「どんな想像?」
「どんな世界のプロでも、スポットライトを浴びるのは、ほんの一握りってことさ」
「……」
「一流を目指し、日夜努力してる人たちが、次々と頭角を現す世界でもある」
「それだけ出入りが激しいってことね」
「そうだね、一種の椅子取りゲームだから、いつ自分の席が取られるか」
「心配してるんだ。そうなったらどうなるのかしら」
「そうでなくても、バンドマンなんて一部の人を除き、意外と実入りが少ない」
「特にこういうご時世だと、演奏会も少ないでしょうしねえ」
「悲惨な現実もあるじゃないかなあ」
「なるほど、彼はそのようなこともあるだろうと、長いスパンで人生を考えてる?」
「うんうん、そこが彼の偉いとこだと俺は思う」
「目先の憧れだけを追い求めても、世の中そう甘くないという教えね」
「一時的にちやほやされて、それなりの収入があったとしても、人生は長いからね」
「安定した収入を得て、家族を安心させながら、趣味の醍醐味をとことん楽しむ」
「彼なりの考えだと思うけど、強い信念がないと、なかなか出来る事じゃないよね」
「強い信念ねえ、いい言葉ね!」
「彼らの存在は、それはそれで我々に楽しみをもたらしてる訳だから、ありがたい」
「そういう事を知った上で、演奏会にはせっせと足を運んで、陰ながら支援する?」
「そうあって欲しいよね。そのことを強く滲ませるような彼の言い方だった」
「演奏会に向けての練習とか、時間的に不規則になり易いと思うけど、その辺は?」
「ああ、仕事の事だね。会社は彼を全面的にバックアップしてるそうだよ」
「あ、そうなんだ」
「彼の人柄と実直な生き方が、会社を動かしてると思うと、これはこれで凄いね」
「ほんと、ほんと、凄いの一言に尽きるわね。いい話聞いたわ。ありがとう」
「ところで、あのフルートは今どうしてるの?少しは練習してみたの?」
「それは言わないで欲しいなあ、フルートには可哀想なことをしてしまった」
「あ~あ、やっぱりねえ~、そうじゃないかと思った。吹いてみたの?」
「振ると音が出るかと思ったけど出なかった」
「それ洒落たつもり?サブッ!結局一度も吹いてないんだ」
「いや、3回ぐらい練習したけど、つまらなくなって止めた」
「えっ、たったの3回?どうしてもフルートをやりたいと言ってたくせに…呆れた」
「実際にやってみるのと、傍で思ってることのギャップを痛いほど味わった」
「性に合わないか、最初に扱う楽器にしては少々難しい楽器だった?」
「そういう事です。ハイ。自分でも呆れ返ってるよ。始末が悪いねえ、この男」
「自分が自分に言ってれば世話ないわね」
「はい、大いに反省しています」
「今頃、収納ボックスの片隅で泣いてるかもね。そのうち恨まれるかもよ」
「夜な夜な出てきて『よくも 私をフルトは けしからん!』なんて?」
「フフ」
▼ 例え一億人に一人でも良いから人の支えになれれば ▼
「ごめん、ここまで俺の話ばっかりして、悪いね」
「最初に私が仕掛けた話だから平気よ。それにとっても為になった」
「ありがとう、そう言われると救われる」
「いいえ、どういたしまして」
「君の話も聞きたいなあ」
「あら、私の話?何もありませんことよ」
「そんなことない、俺と君の間で謙遜はいらないよ」
「ほんとの事だから、謙遜なんて存在しません」
「でなきゃ『能ある鷹は爪を隠す』だな?」
「いいえ、ほら爪なんか隠していませんよ、だから能がないのよ私」
「おお~、綺麗なマニキュアだね」
「でしょ?こちらの方は能があるのよ。自信あり」
「隠してる君の能?えーと、検索にかけて探し出すぜ、……お~、あったあった」
「検索にかける?」
「これこれ、君が運営してる、ピアノ教室の話を聞きたいんだけど」
「えっ、私のピアノ教室の事が出た?出る筈ないわよ」
「あはは、冗談だよ。白状します。君のことは何でも知ってるつもりです」
「あら、嬉しい。でも、運営してるって大袈裟よ。ママゴトしてるようなものよ」
「聞いたぜ評判。凄い人気だそうじゃないの」
「人は適当に言うから、当ってないわよ」
「生徒さん何人位なの?」
「たったの10人程よ、だって自宅で細々とやってるから」
「やっぱりそうか、順番待ちとは聞いてたけど。お子さんだけ?」
「いや、大人もいるわよ2人」
「そうなんだ、ゆくゆくは規模を大きくしたいんでしょ?」
「いいえ、今で十分と言うより、それでなきゃいけないと思ってる」
「適正な人数だという事?」
「そうね、人に物を教えるって大人数じゃ無理よね、教え切れない」
「お金よりも教育の質の問題だ、と言いたい訳だ」
「さすが、物分かりが良い事、敬服します」
「その辺のところを、詳しく知りたいけど駄目?」
「ダメ、人様に誇れるほどの事はしてないわ」
「でも、君が現在に至る過程とかを話すことで、人によっては、刺激を受ける」
「人がいるって言いたい?残念でした。そんな人はこの世には一人もいません」
「あの世には?」
「そうね、一人ぐらいはいるかも」
「冗談は置いといて、俺はいつも思う事があって、実行するようにしてる」
「どんな事?」
「世の中にはいろんな人がいて、こうしたい、ああしたいと思ってても出来ない」
「そうね、そういう人は五万といると思う」
「中にはやり方が分らない、相談する人もいない、なんて人も多いと思う」
「そうね」
「俺が実行してる事は、例え一億人に一人でも良いから、そんな人の支えになれば」
「……」
「いや支えにならなくても良い、何かのきっかけになればと、そればっかり考えて」
「行動してるって訳ね。私にもそうしろと言いたいのね?」
「そうなんだよ。君のその素晴らしい才能と経験を語る事で、一人でも触発されて」
「より良い方向に向かえばと?」
「そして、小さな幸せでもいいから掴んで貰えば、素晴らしい事と思わない?」
「……」
「俺も君も、大なり小なり似たようなことに刺激されて、今日があると思うんだ」
「あなたって、説得するのがお上手ね。段々その気になってくるから不思議よねえ」
「お、脈あり?」
「確かにあなたが言う通りよね、目には見えなくとも、誰かがやらなければと思う」
「じゃあ、決まりだね?」
「はい、じっくり考えて、またの機会にでも語りましょうか」
「やった!サンキュー」