「あ、多いわねえ。歩きスマホ」
「歩道のあるなしに関わらず、スマホを見ながら歩いていたり」
「横断歩道では特に良く見かけるわね」
歩きスマホは視線遮断の効果あり
「『歩きスマホは、とても危険だから止めましょう』と言われて久しいね」
「人とぶつかったり、自転車とぶつかったりの程度なら、まだ良いとも言えるけど」
「車と接触したら命の問題になるから、とても危険だよな。絶対止めるべきだね」
「同感です」
「スマホって歩きながらでも見たくなるような、夢中にさせる何かがあるんだ」
「フフ、ある人もいるかもしれないけど、大半はただ機種を見てるだけかも」
「えっ、どういう事だよ」
「私もやってみたけど、結構いいわよ」
「結構いいわよって、危険を承知で?意味が分らない」
「さっきの待ち合わせの話と同じよ」
「お、人の視線を遮る?」
「横断歩道を渡る時って、目のやり場に困る事ってあるのよね。特に女性は」
「あ、なるほど、止まってる車からジロジロ見られてしまう」
「そう、スマホがない時は、目のやり場に困る位に、強い視線を感じたのよね」
「君の場合、特にスタイルが良いし、とても美しいから多くの眼差しが集中する」
「ありがとう。今までそんなに褒められた事って無いから嬉しいわ」
「事実をありのままに申しあげるのが、吾輩のモットーでございます」
「お世辞と分ってても、褒められると嬉しいものなのね。初めての経験だわ」
「ご謙遜でしょ?そこがまた魅力なのであります」
「ま、それは置いといて」
「ん?」
「だから、スマホを見てる振りをして、その視線を避ける。便利よね」
「なるほど、夏の紫外線除けって言うのは分るけど、なるほどねえ、視線除け」
「だから、スマホでニュースを見たり、画像を見たりしてる訳ではないのよ」
「なるほどねえ~、驚いたね」
「それと、スマホって暇潰しにはもってこいよね」
「さっきの待ち合わせの場合とかも?」
「そそ、ボケーっと待ってるより、見た目にも様になってるしね」
「なるほど、スマホって、視線遮断と暇潰しの為に開発されたんだ」
「アハ、な訳ないでしょ?副産物ってとこよね。新しい価値かも」
「ふ~ん、新しい価値ねえ」
「勿論、実際にニュースなどを見てる人もいるかもしれないけど、殆どはね」
「へえ~、それだけの為に、毎月高い金を支払ってるんだ」
「バカねえ~、そんな訳ないでしょ?……いや、もしかしたらいるかも」
「それは良いとして、危険と背中合わせの行為だから、TPOをわきまえるべきだね」
「それは、絶対そう思います」
スマホは黄門様の印籠?!
「そっかー、そう言われれば、視線除けにはもってこいの道具だね」
「やってみたら?」
「いや、俺はガラケーだから資格なし」
「ガラケーでも同じよ、横断歩道を渡り切る迄の間、ただ見てる振りをするだけ」
「すると『あいつ、まだガラケーかよ』と聞こえてきそうだな」
「そんなの平気なんでしょ?」
「モチ平気平気、見てる奴に高く掲げて見せてやる。そして言ってやる」
「なんて?」
「『皆の者控えおろー、これが目に入らぬか、このガラケーを何と心得る』ってね」
「まあ、黄門様?印籠の拡大画像だ!みんな車から出て『ハッハー』とひれ伏す?」
「それがダメなら、こうも言ってやる」
「……」
「『悔しかったら、ガラケーにして見ろ、出来ないだろ?バカヤロー』ってね」
「あのー、いくらなんでも『バカヤロー』は無いでしょう?」
「ですね。言い換えます『アホー』」
「ヤダ、言うんじゃなかった」
「いやいや、こんなもんじゃ治まらない。とどめを刺してやる」
「もう良いから止めてっ!」
「『スマホにうつつを抜かしてると、ロクな人生しか送れないぞ』てね」
「あら、何てことを、とうとう言ってはいけなことを……、でも言えてるかも」
「ああ、スカッとした」
「フフ、コノヒト、ホントニヤリカネナイ」