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語らいの中に輝かしい未来の光を垣間見る時があります!

◆ 脳の欲しない曲は聴かない

「君が主に楽しんでいる音楽のジャンルは?」
「殆ど毎日のようにJ-Popを聴いてる。あなたは?」
「主としてジャズだったけど、最近は何でもござれって感じだね」

同じジャンルの曲をランダムしてはいけない

「何でもござれって、例えばどんな音楽?」
「世の中に出回ってる音楽の全て」
「全て?」
「ちょっと言い方が悪かったかな、通常言われる音楽と言うより音そのものの意味」
「音そのものって?」
「例えば、小鳥のさえずりとか、小川のせせらぎとか、バイクの走る音とか」
「そうなんだ」

「例えば今、作詞作曲したから聞いてください。目を閉じてイメージしてみて」
「作詞作曲?」
「小川と言う楽器が、せせらぎを奏でていた、そこに遠くで鶯がさえずり出した」
「まあ、春の訪れ」
「そこに、人間の親子がボーカルした」
「親子のボーカル?」
「『おかあさん遠くで鶯が鳴いてるよ』『あらほんとね、もうすぐ春ね』」
「……」
「そのボーカルを聞いてたカエルが、負けじとばかりに、大声でボーカルした」
「まあ、カエルの登場?」
「そこに、小川で泳いでいた魚が、思い切り飛び跳ねて笑った」
「魚まで?」
「小さな森中に合唱が、エコーとなっていつまでも鳴り響いていた。……どう?」
「素晴らしいわね!まさに音楽よね」
「自然の音は立派な音楽だという所以でした」
「なるほどねえ~」

「それらを音楽に乗せて聴くと言った方がいいかな」
「例えばバイクの走る音を音楽に乗せるってことは、編集ソフトか何かで合成?」
「いや、そんな面倒くさいことはしない。またも誤解するような言い方だったなあ」
「何だか、何言ってるのかさっぱり分らない」
「ごめんごめん、もとい、そういう音源を探してMP3プレーヤーに取り込んでいる」
「あ、そういう意味ね。最初からそう言えば良いのに、回りくどい言い方するから」
「でした、訂正してお詫び申し上げます」
「フフ、で、その音源はどこから取り込んでるの?」
「ラジオとテレビ」
「CDとかDVDからは?あるいは音楽サイトからダウンロードするとかは?」
「お金の掛る事は一切しない。そんな、ゆとりのない生活を余儀なくされています」

「じゃあ、好きなジャズ以外に、クラシック音楽とか民族音楽とかも含む訳ね?」
「もちろん、民謡も童謡もあるよ。それに今はまってるのは台詞入りの映画音楽」
「セリフ入りの映画音楽?例えば?」
「刑事コロンボ」
「えっ、それって殆どセリフばっかりじゃ?」
「うん、だね、音楽は取ってつけたみたいな感じだけど、気に入ってる」
「へえ~、そんな何処がいいの?」
「犯人を逮捕するくだりを録音する」
「物好きだ事」
「その場面がMP3プレーヤーから流れると、映画のシーンが鮮やかに蘇ってくる」
「その他には?」
「邦画もそうだね。同じようにセリフを含んだ音楽を録音してる」
「刑事コロンボは日本語吹替えだし、邦画はもともと日本語だし、それで?」
「いや、洋画とか西部劇も、好きな場面を中心に録音する」
「えっ、ということは、英語に堪能ってこと?外国語分るの?」
「アハ、残念ながら全くの外国語音痴です」
「じゃ、何で外国語のセリフ入りの場面を録音する訳?」
「外国語のセリフも音楽だから」
「セリフも音楽?」
「そう、セリフもさっき言ったように、小鳥のさえずりとかと同じ音楽と思ってる」
「へえ~、そうなんだ」
「良く考えてごらん。小鳥のさえずりにしても、小川のせせらぎも外国語と同じ」
「ん?……なるほど、うん、なるほど、そう言われればそうかも知れない」
「だろ、言ってみれば意味不明の言葉。外国語も同じじゃない?」
「取って付けたような屁理屈に聞こえるけど、一理あるかも」

「セリフの話は置いといて、じゃさ、洋楽は聴かない?」
「もちろん聴くわよ」
「ボーカルは全部外国語だろ?意味が分って聴いてる訳?」
「残念だけど、意味を分ってては聴いてないわね。メロの一種の類よね」
「それって、外国語のセリフ入りの映画音楽と同じじゃない?」
「あ、そう言われればそうよね。なるほど、そんなこと考えたこともないわね」
「最近では J-ポップなんかでも、外国語をちりばめた歌詞が結構多いと思わない?」
「ある、ある。意味は分からないけど、やっぱり、小鳥のさえずりと同じね?」
「だろ?」

「今、MP3プレーヤーには何曲くらい録音してあるの?」
「やっと700曲くらいになった。予定の半分くらいだね」
「それでも結構多いと思うけど、ラジオとテレビからどうやって録音するの?」
「簡単だよ。たぶん誰でもやっていることだと思う。超簡単」
「私はそんな事やった事ないから全然分らない。どうやるの?教えて」
「うんいいよ。後日じっくりと教えてあげる。結構楽しいよ」
「お金を掛けずに、何かをやる時って楽しいものよね」
「そそ、型にはまらない楽しみ方が出来るから尚更だね」
「ちょっと聞いてもいい?」
「うん、何?」
「MP3プレーヤーから流れてくる音楽は、ランダムに流れてくる訳でしょ?」
「うん、だよ。そのように設定してる」
「ジャズが流れて来たかと思うと、次はクラシックとか民謡とか歌謡曲とか?」
「うん、だよ。面白いだろ?」
「でも、普通ジャズ好きな人はジャズばっかり録音する筈だけど、どうして?」
「どうして『何でもかんでも録音するの?』って言いたそうな顔だね」
「だって、普通とちょっと変わってるから。どうしてなのか理由を聞きたい」

パット・メセニーは予測不能のジャズサウンドを奏でる


「待ってました。良くぞ申しました。これには深い訳があるのであります」
「あら、ヤダ、言わなきゃ良かった。また、長々と屁理屈な講釈が始まりそう」
「君はパット・メセニーという名のギタリストの曲聞いたことある?」
「ほら、来た来た。見たことも聞いたこともない。それがどうしたの?」
「俺も全然知らなかったんだけど、実はこの音楽を聴いた事がきっかけなんだよ」
「そうなんだ、続けて」
「ある時、偶然テレビ番組を見てたら、パット・メセニーのライブ番組を見つけた」
「日本公演のライブ?」
「いや、アメリカニューヨークのソニーホールでのライブ」
「何と言うバンド?」
「Side-Eye(サイドアイ)と言うプロジェクト」
「フルバンドと言うかビッグバンド?」
「いや、ギターとドラムとピアノとキーボードのシンプルなバンドだった」
「うん」
「全然知らない名だし、録画するのを止めようかと思ったけど、何故か気になって」
「そんなこと良くあるわよね」
「ま、つまらない番組だったら削除してしまえば良いことだしと、軽い気持ちで」
「録画した訳ね。で、録画を見てどうだったの?」
「冒頭から流れる曲を聴いて、危なく削除するところだった」
「パット・メセニーがパッとしなかった訳だ。削除を躊躇した何かがあったの?」
「うん、今まで聞いた音楽の常識を覆すと言うと聞こえは良いけど、メチャクチャ」
「メチャクチャ?パット・メチャクチャニー?」
「何と表現したらいいかなあ『良くぞこんな音楽が作れるものだ』が最初の印象」
「それからどうしたの?」
「ところが、何か違うと思いながら、何故か聴き続けてみて、オヤッと思ったんだ」
「ええ」
「まず、さっき言ったメチャクチャを取り消さなきゃ怒られる」
「だったら、パット・メチャクチャニーも取り消します」
「あはは、素直でよろしい!」
「聴き続けてみて、何かを感じたのね?」
「そうなんだ。何だろう、表現が見つからない」
「あら、まあ」
「聴いてる内に、凄く居心地が良いって言うか、安らぐって言うか、適切語がない」
「……」
「とても不思議な感じ。これまでに感じたことのない新鮮な感覚が全身を覆った」
「へえ~、それで?」
「90分の番組だけど」
「ええ」
「気が付いてみたら、全曲夢中で聴いている自分に気が付いた。我ながら驚いた」
「音楽の中に何かが仕込まれていたのかしら」
「お~、いいところに気が付いたね。同じことを考えたんだ。これって何だろうと」
「それで?」
「最初に考えたのは、ま、物珍しさからくる感覚が興味を注いだ」
「なるほど、そうかもしれないわね」
「で、それから何回も通しで聴いてみても、同じ感じなんだ」
「あ、そうなんだ。ということは?」
「だから、物珍しさからじゃない、とはっきり言える。じゃ何なんだとなる」
「そうよね、何だったの?」
「はっきりしたことが分れば苦労しないよ。でも、ハッと、もしかしたらと」
「何かに思い当った?」

「パット・メセニーはジャズ奏者なんだけど、同じジャズでも何かが違う」
「ジャズファンのあなたでもそう感じる」
「確かに外れた旋律のように聞こえるけど、そこに巧みに仕組まれた異次元の旋律」
「初めて聞く人には狂った旋律そのものだけど、凄いハイレベルの世界という事?」
「インタビューで女性も言っていたけど、正に予測不能の展開のジャズサウンド」
「お化けのサウンド?」
「あは、もっと良い表現ない?けど、得体のしれない音楽、そう言っても良いかも」
「……」
「ジャズファンと言っても、俺は専門家ではないから、いい加減な考えなんだけど」
「……」
「『もしかしたらこれじゃないか』と、ハッと思いついた事が脳を揺さぶった……」
「パッと何かが浮かんだんだ。何々?早く言って……」
「はっきりと『もうこれしか考えようがない』と確信した」
「それは?」
「それは『俺の脳が欲している曲なんだ』と」
「えっ、何よそれ。……脳が欲している曲?意味不明。あきれた、馬鹿馬鹿しい」
「あはは、さんざん勿体ぶった挙句にってか?」
「そうよ、そんな屁理屈、もう聞きたくない。パット・メサナイニー」
「あはは、そう来るだろうと思った。俺ですら言いたくなる」

違ったジャンルの曲をランダムに聴こう


「でも一応、能書きでも良いから聞いておきたい」
「ん?何を?」
「だから、その『脳が欲している曲』だと思った根拠」
「根拠?根拠なんてないよ。ただ思っただけだから。しかし、理由付けは出来る」
「じゃあ、その理由付けでも良いから言ってみて」
「普通さ、いくら好きな曲でも、何回も聴いていると飽きることない?」
「うん誰でもそうじゃない?飽きると言うより、たまには他の曲聴きたいとなるわ」
「だろう?そこなんだよ、脳も同じことを感じているんだよ」
「えっ、どういうこと?脳も?」
「脳が言う『今の曲もいいけど、違ったジャンルの曲はないのかい?』とね」
「言うと言うより、その脳の思いをあなたに伝えてくる訳ね」
「そそ、そういう事さ。別な、例えば民謡とか童謡を脳に聴かせる」
「いよいよ、何か、こっちの頭までがおかしくなって来そうな展開だわね」
「そうすると脳が言う『いいぞいいぞ、活性化してきたぞ』と笑みを浮かべる」
「フフ、勝手に続けて、もう、腕組みして聞いてあげるから」
「ありがとう、で、この脳の言う活性化の意味を君はどう思う?」
「オーノー、ノーサンキュー。モ- ドウデモイイコトデショ? コタエルキニナラナイ」
「俺はこれぞまさしく、人間の健康体を造る究極のメソッドと位置付けた」
「ちょっとちょっと、勝手に講釈するのはいいけど、飛躍しすぎない?」
「そうかなあ、ノーベル賞まではいかないけど、凄い新発見だと思うけどなあ」
「ああ、もう付き合いきれない。……で、それから?……アレ! ツキアッテル」
「つまり、これが俺の言う『世の中に出回ってる音楽の全てを収録する』意味合い」
「何となく理解できた」
「全てと言っても、全てのジャンルの、好きな曲の全てと言い換えた方が良いかな」
「なるほど、一応お伺い致しましたけど、実際の感じはどうなの?」
「良くぞ聞いてくれました。バッチリ!ランダムだから、今度は何が来る?」
「ジャズ?クラシック?民謡?コロンボ?童謡?映画音楽?……あはは、面白い」
「だろ?音楽ジャンルが切り替わる度に、脳が手を叩けと命令して喜んでる」
「ん?それって面白い。って言うか、何だか新感覚だわ」
「そして脳は体内の12個の臓器に命令する。『みんな元気を出して活発に行こう』」
「12個の臓器?心臓とか腎臓とかの?12個もあるかしら」
「うん、あるある。そう思いなさい。命令を受けた各臓器は一斉に活発になり」
「健康体になる?それがほんとだったら、音楽の持つパワーって凄いわね」
「だろ?もしかしたら、音楽によって、脳をコントロールすることも可能かもよ」
「へえ~、凄いことを思いつくのね。ここまで聞いて、やっと分りかけてきた」
「屁理屈もこのレベルまで来ると、本物って言うか一流だね」
「フフ、本人がそれを言っちゃあおしまいよ」
「あはは、だね」

「私もパット・メセニーの演奏する曲、聴いてみたくなってきた」
「だね、聴いてどう感ずるか、是非意見を聞きたいね」
「何処で探せばいいかしら?ユーチューブ?」
「多分CDはあるだろうけど、お金を出す程の事もないし、調べて見たら?」
「そうね、そうするわ。ところで、作曲はパット・メセニーなの?」
「そのようだよ。素人の俺が言うのもなんだけど、ギターテクニックは普通だね」
「ん?」
「ピアノとキーボードはジェイムズ・フランシーズ、ドラムはマーカス・ギルモア」
「うん?全然知らない」
「二人のテクニックは凄いね。驚いたね。あそこまでなると究テクって感じ」
「究テクって、究極のテクニックってこと?」
「そう、さすがプロ中のプロって言われるだけのことはあるね」
「そうなんだ」
「知らなかったけど、日本にも相当多くのファンがいるみたいだね」
「あ、そうなの?そんなヘンテコな音楽、ゴメンナサイ、なのに?」
「分る人には分るんだね。その意味では俺なんかド素人もいいとこだね」
「思い知らされた?」
「だね。もっと勉強しなくっちゃ」

エリック・クラプトンのおススメの一曲はコレ


「あの~、ついでで申し訳ないんですけど」
「おや、改まって何?」
「あなたが今まで聴いてきた音楽の中で、私にお勧めの一曲があるとしたら、何?」
「オススメの一曲ねえ、そうだなあ、一杯あるけど、J-ポップ系?、ロック系?」
「こだわらない、とにかく、何でも良いからお勧めの一曲」
「じゃあ、エリック・クラプトンのワンダフル・ツウナイトなんかはいいと思う」
「どんな曲?」
「とてもロマンチックな曲で、エリック・クラプトンの中では一番好きな曲」
「ありがとう。一度聞いてみる」
「取り敢えずユーチューブで聴いてみたら?多分気に入ると思うよ」
「はい、そうする」
「エリック・クラプトンはいい曲を一杯作ってるよ。レイラなんかもいいよ」
「はい、ありがとう」
「聞けば分かると思うけど、エリック・クラプトンのギターテクニックは凄いよ」
「そうなの?」
「さすがギターの神様と言われるだけの事はあるね。驚嘆の世界!ま、聞けば分る」

「も一つ、今ちょっと思ったことで質問があるんだけど、聞いてくれる?」
「ん?なに?」
「先程から脳の話が出てるけど、脳には記憶を貯蔵してる所があるんでしょ?」
「記憶を貯蔵?うん、脳のどこの部分かははっきりとは知らないけど、多分ね」
「耳から入ってくる音楽は、全て脳に蓄積されているってことでしょ?」
「多分そうだよね。あるジャズが流れてくると『あ、これは昨日も聴いたなあ』」
「散歩中の行進曲だと『はい、リズムに乗って軽快に歩きなさい』と命令が来る」
「多分ね」
「日本人の脳には日本語が蓄積されているから、日本語が話せるのよね」
「うん、そう思う」
「例えばイギリス人だと、脳に英語が蓄積されているから、英語がすらすらと出る」
「うん、多分ね」
「そこで質問です。だったら、苦手の英語を克服するために、脳を入れ替えたら?」
「オイオイ、脳を入れ替える?」
「はい、英国人の脳と私の脳を手術して入れ替えたら、私は英語がペラペラに?」
「ほー驚いたね。奇抜な発想だね。どうだろうね、どうなるだろうか。興味あるね」
「でしょう?英語が苦手な私には、その手はいい方法だと思うけどなあ」
「手術費がバカにならないよさ」
「50万円位なら何とかなるから出来ないかなあ。だったら手術を受けてもいいけど」
「一度病院で聞いてみたら?」
「うん、そうする」
「ところで脳を交換したら、日本語が話せなくなる可能性があるけど、いいの?」
「あら、ヤダ。そうよね。私って馬鹿だわねえ。日本人じゃなくなる?……嫌だわ」
「ったく何を考えてんだか。あはは、だんだん俺に似てきた。あははは、可笑しい」
「下手な考え休むに似たりだったわね」

ハーモニーを司るリズム楽器


「いつだったか友達に聞いたけど、あなたはジャズバンドの一員になってるの?」
「バンドと言うには程遠いね。地域のジャズ同好会でプロではない」
「あ、そうなんだ。何と言う楽団名なの?」
「楽団名? M・グリーンロードと言うけど」
「M・グリーンロード?何だか自然保護団体みたいな楽団名ね」
「うん、それと、まんざら関係ないことはないけどね」
「Mってどういう意味なの?」
「もっとのM」
「えっ『もっと緑を増やしましょう』とかの意味?」
「そのようだね。詳しい事知りたけりゃバンドマスターに聞いて、俺は知らない」
「M・グリーンロードねえ」
「それがどうかしたの?」
「やっぱりね、友達が興奮したように言ってたわよ」
「何て?」
「ジャズの演奏を聴きに行ったんですって」
「うん」
「髭のベーシストが、凄くカッコ良かったって言ってたけど、あなたのこと?」
「えっ、違うだろう。髭を生やしたベーシストなんて、俺以外にもいるよ」
「だって楽団名聞いたら、M・グリーンロードって言ってたわよ」
「だったら、俺の事だけど、買い被りもいいとこだね」
「私、友達から聞いて、少し焼もち焼いちゃった」
「その友達ってジャズファンなのかな?」
「そうでもないみたい。その人の友達にジャズキチがいて、誘われたみたい」
「そういう事か、初めての場合、誰でも雰囲気的にカッコよく見えるもんだよ」
「私は友達の言うの分る気がする。あの、今度はいつあるの?演奏会」
「近いうちにある予定だけど、どうして?」
「私も聴きに行きたくなった」
「あはは、よせよ、君がいることが分ったら、絶対ミスってしまう」
「フフ、ご謙遜を。友達が言ってたわよ、上手だって」
「上手ってか、やっぱりまだそのレベルなんだ。やっぱ、来て欲しくないなあ」
「フフ、余計に行きたくなった。日程決まったら教えてね」
「えっ、ん?……ウン ダケド オシエタクナイナア」

「楽器はウッドベース?」
「いや、ウッドベースをやりたかったけど、高くて手が出なかった。エレキベース」
「給料が安いから?」
「安いねえ、とてもじゃないけど、ウッドベースは買えなかった」
「そのバンドに入るきっかけって何かあったの?」
「うん、俺の友人で、別な楽団でトランペットを担当してる奴がいて」
「へえ~、トランペット、いいわねえ」
「その楽団は、セミプロの位置付けと言った方がいいかな」
「うん」
「社会人バンドでもトップクラスのバンドで、彼はそこの一員なんだ」
「カッコいい!」
「彼とは良く飲みに行ったりして、結構気の合う仲なんだよ」
「うんうん」
「有名なプロのバンドの演奏会に、良く連れて行ってもらう」
「なるほど」
「彼は余計なことは一切言わない男でね。そこが俺は気に入ってるんだけどね」
「うんうん、その気持ち良く分る」
「音楽に余計な色は付けない、感じたそのままを、身体中の細胞で受け入れる」
「感じたままを受けいれて、自分なりに楽しむってことね。ステキねえ~」
「だよなあ~」
「その友人のバンド演奏は?」
「うん、良く聴きに行くんだけど、何とまあ、カッコいいたらありゃしない」
「うんうん、分かる分かる」
「舞台の中央に出てきて、スポットライトを浴びてトランペットソロを奏でる姿に」
「しびれてしまったんだ」
「そうなんだよ、その姿を見て、俺もああなりたいなあと強く思ったんだよ」
「その気持ち良く分る」
「で、彼にその旨を伝えたら、さっきのバンドを紹介してくれたんだ」
「あ、そうなんだ。それまで何か楽器を経験したことはあったの?」
「あはは、恥ずかしい話、全くなかった。少年時代にハーモニカを吹いた程度」
「ああ、それじゃ、舞台の彼の姿を見て、ほぼ衝動的にその気になった?」
「うん。あはは、身の程知らずもいいとこだね」
「で、それから?」
「紹介されたバンドは、以前、その友人が所属していたバンドだったみたいなんだ」
「そうなんだ、その人はそこで努力して、鍛えられて、セミプロになったって訳だ」
「だね。ルックスも良いし、なるべくしてなった素養を備えていたんだろうね」
「わ~、ステキ!」

「どうしてベースの担当になったの?」
「好きで担当になったんじゃないんだ」
「えっ、どういうこと?」
「たまたま、ベースを担当していた人が、病気で長期入院を余儀なくされて」
「空きが出た?」
「そうなんだよ、やってくれないかとね」
「そう言われても、全然経験のないあなただもの、引き受ける事出来ないでしょ?」
「だね。それに俺はフルートをやりたかったから、その旨をマスターに話したら」
「バンドマスターね。で?」
「今のところフルートは間に合ってる。増員してもいいけど、ベースのことも頭に」
「入れといてくれと言われたんだ」
「そう。バンドマスターの顔に書いてあった。入団を頼まれた以上仕方ないなあ」
「それはそうでしょうよ。大抵の場合、経験のある人が門をたたくんでしょ?」
「俺のバカさ加減を、マスターは腹では笑っていたかもね」
「このバカ、やれるもんならやってみろって?」
「ま、多分、そんなことだろうね」
「で、どうしたの?」
「俺もこうなったら引き下がる訳にはいかない。半年間の時間を貰ったから」
「えっ、半年後にもう一度来い、その時考えるってことなの?」
「そういう事みたいだった。友人も俺の肩を叩いてニコッと笑った。そして言った」
「気になる、何と言ったの」
「自分の顔を指差して『同じだ』って一言。元々寡黙な友人だから、それだけ」
「ふ~ん」
「それを聞いて、俺の胸の奥底で、身体中を激しく震わせるような稲妻が走った」
「……」
「えっ、今やスポットライトを浴びているこの友人と同じ?……お、そうなんだ」
「なるほど、凄い励ましの言葉だったんだ。やるねぇ友人さん。たった一言が全て」
「俺のやる気に火が付いた。今に見てろと思った」

「それからどうしたの?」
「折角世話してくれた友人の顔に泥を塗る訳にはいかない。そればっかり考えた」
「手始めに何から始めたのか知りたい」
「その場で友人と別れた後、銀座の有名な楽器店に、車ですっ飛んで行った」
「まあ、気が早い。居ても立っても居られない気持だったんだ」
「楽器店に飛び込んで、店員のアドバイスを聞きながら、フルートを買った」
「えっ、ベースじゃないの?」
「どうしてもフルートをやりたかったからね。ベースのことは頭になかった」
「まさか、衝動買い?」
「ったく衝動買いというのは良く聞くけど、アハ、目も当てられないバカだな」
「同感」
「でもやりたくて仕方なかったからねえ、フルート」
「見境なく買ってしまったんだ」

リズム楽器が演奏全てを支配する

「会計を済ませて、ふと、ある思いがよぎった」
「どういう思い?」
「楽器店の店員だったら、プロを含めていろいろなプレーヤーと接してる筈だから」
「うんうん、そうよね。この際だから何か役立つ情報を得ようと?」
「そうなんだよ、で、店員に相談があるからと言って、時間を割いてもらって」
「いろいろ聞いたんだ。どんなこと聞いたの」
「事情を話して『あなたが俺の立場だったらどの楽器を選ぶ?』と尋ねた」
「フルートを買った後でそんなこと尋ねる?バカみたい」
「みたいじゃなくて、結果的にバカだった」
「フフ、面白い。どういう事か聞かない訳にはいかないわね」
「俺の質問に店員はどう答えたと思う?」
「当然でしょ?『お買いになったフルートがいいと思いますけど』と?」
「それが全く違うんだよ。『私だったらベースにしますね』だって」
「なるほど、店員さんの言った意味を考察しますと、二つ考えられますね」
「考察と来たか、二つって?」
「まず一つは、単に店員がベース好きだという事、もう一つは店の売上に貢献」
「うん、一つ目は分るけど、二つ目はベースも買わせる気だと言う訳?」
「そう、どっちか当ってるでしょ?」
「二つともブーだね」
「あら、違うの?」

「店員が言うには、フルートはメロディー楽器で、ベースはリズム楽器だって」
「うん、それで?」
「店員が俺に尋ねてきた『バンドで一番重要なことは何だと思いますか?』」
「一番重要なこと?何でしょうね」
「俺も考えたことのない質問に、言葉が詰まってしまって、答えられなかった」
「店員の答えは?」
「『リズム楽器が演奏全てを支配しないと、陳腐な演奏になってしまう』」
「へえ~、そうなの?驚いたわ。プロの世界ではそうなのかしら」
「だからベースがお勧めだ、と言いたかったんだと思う」
「ちゃんとした意味があったんだ」
「店員は俺の立場から判断して、そういうアドバイスをしてくれたんだと思う」
「なるほど、色々な人を見て来てる人ならではのアドバイスだったのかもね」
「だよね、『断然ベースにすべきだ』と言ってると、俺は受け止めたんだ」
「なるほどねえ~、その道その道の世界観だわねえ」
「リズム楽器にはドラムもあるけど『ベースは魅力ある楽器ですよ』と言われた」
「言われて、フルートを返品して、ベースを買うことにしたの?」
「いや、店員の有り難いアドバイスに、お礼をしたい気持ちになって」
「えっ、まさか両方買ってしまったって言わないわよね」
「いや、そこで暫らく考えた。アドバイスはアドバイスとして受け止めて」
「じゃ、その場では買わなかった?」
「うん、お礼もそこそこに、フルートのケースを持って外に出て」
「何だか、その先が読めそう」
「急いで近くの駐車場に止めていた車に飛び乗り、一路秋葉原に直行」
「呆れた、フルートは後ろの座席に放り投げて?」
「どうぞ、どうぞ、遠慮はいりませんよ、笑ってください」
「呆れて、笑えもしない。で、その先はどうなったの?」
「これから先が肝心要の話になるんだけど、話が長くなるんだよなあ」
「……」

「だから、関連にした記事を書いてあるから、そちらを見てくれる?」
「関連にした記事?」
「エッセイじゃなくて、エッセイ風な記事だけどね。その後の事がいろいろとね」
「あ、そうなんだ。アドレスは?」
「『エレキベースを演奏したくて』っていうタイトル」
「あい、分りました。ちょっと待って、今、見てみる」
「…………」
「なるほど、結果的には夢が実現できてハッピーだけど、う~ん」
「バカさ加減も、こうなると本物だろ?」
「結構高い買い物と書いてあるけど、安給料のあなたが随分と思い切ったわね」
「あ~あ、それを言われると、またバカ扱いされそうだな。毎月苦労してる」

一緒に龍神の滝に打たれに行く?


「後先考えないで買うバカだから出来たことね」
「そういうのを『一途バカ』とか『衝動バカ』と言うんだよ。知ってる?」
「適当に言い訳がましく良く言うわね。も一度言いたい、あなたってバカねえ」
「薬持ってない?バカにつける薬」
「あるわよ。龍神の滝にでも打たれて来たら?」
「君も飽きもせずこんなバカの話に付き合って、疲れない?」
「ゼンゼン、それより結構面白い話だったわよ。それにバカげた話ばっかりで」
「ん?」
「私までバカになってしまいそう」
「あはは、君もついでに、俺と一緒に龍神の滝に打たれに行く?」
「あら、いいわね!」
「あはは、それは楽しみだ。うん、行こう」
「その笑いは、何か魂胆がありそうな笑いね」
「滝に打たれる時、どういう格好で打たれるか知ってる?」
「えっ、知ってる訳ないでしょ?」
「薄い白い行衣に着替えて、滝に打たれるんだそうだよ」
「あ、そうなんだ」
「だから、滝に打たれたら、行衣が肌にぴったりくっ付いて、身体のデコボコ」
「デコボコ?凹凸?もっと良い表現ないの?」
「身体の曲線がくっきりと表れる」
「何よ、私の身体をジッと見て、……何かいやらしいこと想像してない?」
「あは、これが想像せずにいられる?君のそのふくよかな胸の線、いいね、いいね」
「まあ、呆れた。そんな不純なこと考えながら打たれたら、罰が当たるかもよ」
「そっか、龍の神様に?見たらダメ、って目が見えなくなったりして?」
「でも、あなたの考えは少し甘いような気もするなあ」
「どうして?」
「滝に打たれるって、想像しただけでも寒気がする」
「ん?」
「だって、滝って凄く冷たくて、激しく打たれるんじゃないの?」
「うん、経験した事ないから分らないけど、多分そうだろうね」
「だったら、さっきみたいな悠長なこと言っておれないんじゃない?」
「ん?」
「全身が凍えそうで、何もかも縮んでしまいそうだわよ」
「えっ、何もかも縮む?」
「何よ、下向いて、どこ見てるの?」
「あ、見てた?……いや、何もかも縮むを考えてた」
「フフ、そんなの考えなくてもいいわよ、バカねえ」
「あはは、そう言いながら、自分も目のやり場に困ってない?」
「フフ、あなたってほんとに憎み切れないバカね。デモ ソンナトコロガ スキヨ」
「ハイ」
「でも、全身が凍えるなんて、何だか行きたくなくなった」
「だな、止める?」
「でも、実際にどういう風なのか見てみたい気もするわ」
「じゃ、参考の為に、ドライブがてら行くだけ行ってみる?」
「そうね、そうしましょう」
「決まりっ!」

「ちょっと気になってることがあるんだけど、聞いてもいい?」
「ん?何?」
「例の銀座の楽器店の店員さんが言ってたこと」
「ん?」
「ほら『リズム楽器が演奏全てを支配しないと、陳腐な演奏になってしまう』って」
「うんうん、そうだったね」
「どうなの、実際に楽団で演奏してみての感じは」
「あ、今思い出した。例の友人のトランペッターさ」
「あ、はいはい」
「彼も同じようなことを言ってて、その銀座の店員のことを誉めてたぜ」
「やっぱりそうなんだ。じゃ、ベストチョイスだったって訳ね」
「実際に演奏してて、バンドには、ドラムとベースは不可欠だという事を感じた」
「それはそうでしょうけど、『演奏全てを支配してる』って感じなの?」
「う~ん、どの楽器も必要不可欠だと思うけど、友人がこんなことを言ってた」
「うん、なんて?」
「メロディー担当の演奏者にとって、リズムが狂うと最悪だ、演奏にならない」
「それが答えね、なるほどねえ」
「『メロが少々外れても気にならないけど、リズムは絶対に正確でないと』って」
「それが店員さんの言う『演奏全てを支配』と言う意味だったのね。奥が深い」
「楽団の編成によっては、リズム楽器は必要ない場合もあるかもしれないけど」
「多くの場合と言うか殆どの場合と言った方が良いわね、リズム楽器は外せない」
「少々地味な存在に見えるけど、それだけ重要な位置付けだってことだね」
「メロディーとリズムがばっちりかみ合うことで、素晴らしい世界が生まれる」
「プロの世界では、当たり前のことだけど、そういう事が言えそうだね」
「リズミカルにってよく言うけど、なんか関係ありそうな言葉よね」

長いスパンで人生を考る強い信念

「関連した事って言うか、ちょっと面白い話があるんだよ」
「うん」
「かの友人のトラペッターが俺に『良い選択だったな』と言ったんだけど」
「ん?ベースに決めた時の事ね」
「そこで俺は彼に、少々意地悪な質問をしてみたんだ」
「どんな?」
「『俺もトランペットにすれば良かったかなあ』ってね」
「うん、そしたら?」
「『それは困るなあ』だって」
「えっ、何で、何で困るの?」
「『君が俺のライバルになると、俺の出番がなくなる』だってよ。嬉しかったなあ」
「えっ、ライバル?あはは、笑える!」
「だよな、いま、その時の彼の実に優しい眼差しを思い出した」
「逆立ちしても絶対にありえない事を、サラッと言うところが素晴らしいわね」
「さすがだな。やはり何事もトップになる人の考えは、俺みたいな凡人とは違う」
「そのようね」

「彼の偉い所がもう一つあるよ」
「どういう所?」
「会社勤めをしながら、バンドの一員を貫き通している点だね」
「それがどうして偉いの?」
「彼はかなりの腕前だから、上のクラスのプロのバンドから誘いがあるらしいんだ」
「へえ~、スカウトね?」
「そうなんだ、だけど彼は絶対に首を縦に振らない。断り続けている」
「何で?上のクラスで、スポットライト浴びたほうが良いと思うけど」
「彼が言うには、名声よりも、人生そのものの価値の方がはるかに大切だとね」
「えっ、どういうこと?」
「バンドマンだけでは飯は食っていけないという事さ」
「あら、そうなんだ。そんなもんなの?」
「華やかそうなバンドの裏では、色々な人間模様があるみたいだよ」
「芸能界でもいろいろあるって聞くわね」
「彼はあまり詳しいことは言いたがらないけど、だいたい想像出来る」
「どんな想像?」
「どんな世界のプロでも、スポットライトを浴びるのは、ほんの一握りってことさ」
「……」
「一流を目指し、日夜努力してる人たちが、次々と頭角を現す世界でもある」
「それだけ出入りが激しいってことね」
「そうだね、一種の椅子取りゲームだから、いつ自分の席が取られるか」
「心配してるんだ。そうなったらどうなるのかしら」
「そうでなくても、バンドマンなんて一部の人を除き、意外と実入りが少ない」
「特にこういうご時世だと、演奏会も少ないでしょうしねえ」
「悲惨な現実もあるじゃないかなあ」
「なるほど、彼はそのようなこともあるだろうと、長いスパンで人生を考えてる?」
「うんうん、そこが彼の偉いとこだと俺は思う」
「目先の憧れだけを追い求めても、世の中そう甘くないという教えね」
「一時的にちやほやされて、それなりの収入があったとしても、人生は長いからね」
「安定した収入を得て、家族を安心させながら、趣味の醍醐味をとことん楽しむ」
「彼なりの考えだと思うけど、強い信念がないと、なかなか出来る事じゃないよね」
「強い信念ねえ、いい言葉ね!」
「彼らの存在は、それはそれで我々に楽しみをもたらしてる訳だから、ありがたい」
「そういう事を知った上で、演奏会にはせっせと足を運んで、陰ながら支援する?」
「そうあって欲しいよね。そのことを強く滲ませるような彼の言い方だった」

「演奏会に向けての練習とか、時間的に不規則になり易いと思うけど、その辺は?」
「ああ、仕事の事だね。会社は彼を全面的にバックアップしてるそうだよ」
「あ、そうなんだ」
「彼の人柄と実直な生き方が、会社を動かしてると思うと、これはこれで凄いね」
「ほんと、ほんと、凄いの一言に尽きるわね。いい話聞いたわ。ありがとう」

「ところで、あのフルートは今どうしてるの?少しは練習してみたの?」
「それは言わないで欲しいなあ、フルートには可哀想なことをしてしまった」
「あ~あ、やっぱりねえ~、そうじゃないかと思った。吹いてみたの?」
「振ると音が出るかと思ったけど出なかった」
「それ洒落たつもり?サブッ!結局一度も吹いてないんだ」
「いや、3回ぐらい練習したけど、つまらなくなって止めた」
「えっ、たったの3回?どうしてもフルートをやりたいと言ってたくせに…呆れた」
「実際にやってみるのと、傍で思ってることのギャップを痛いほど味わった」
「性に合わないか、最初に扱う楽器にしては少々難しい楽器だった?」
「そういう事です。ハイ。自分でも呆れ返ってるよ。始末が悪いねえ、この男」
「自分が自分に言ってれば世話ないわね」
「はい、大いに反省しています」
「今頃、収納ボックスの片隅で泣いてるかもね。そのうち恨まれるかもよ」
「夜な夜な出てきて『よくも 私をフルトは けしからん!』なんて?」
「フフ」

例え一億人に一人でも良いから人の支えになれれば

「ごめん、ここまで俺の話ばっかりして、悪いね」
「最初に私が仕掛けた話だから平気よ。それにとっても為になった」
「ありがとう、そう言われると救われる」
「いいえ、どういたしまして」
「君の話も聞きたいなあ」
「あら、私の話?何もありませんことよ」
「そんなことない、俺と君の間で謙遜はいらないよ」
「ほんとの事だから、謙遜なんて存在しません」
「でなきゃ『能ある鷹は爪を隠す』だな?」
「いいえ、ほら爪なんか隠していませんよ、だから能がないのよ私」
「おお~、綺麗なマニキュアだね」
「でしょ?こちらの方は能があるのよ。自信あり」

「隠してる君の能?えーと、検索にかけて探し出すぜ、……お~、あったあった」
「検索にかける?」
「これこれ、君が運営してる、ピアノ教室の話を聞きたいんだけど」
「えっ、私のピアノ教室の事が出た?出る筈ないわよ」
「あはは、冗談だよ。白状します。君のことは何でも知ってるつもりです」
「あら、嬉しい。でも、運営してるって大袈裟よ。ママゴトしてるようなものよ」
「聞いたぜ評判。凄い人気だそうじゃないの」
「人は適当に言うから、当ってないわよ」
「生徒さん何人位なの?」
「たったの10人程よ、だって自宅で細々とやってるから」
「やっぱりそうか、順番待ちとは聞いてたけど。お子さんだけ?」
「いや、大人もいるわよ2人」
「そうなんだ、ゆくゆくは規模を大きくしたいんでしょ?」
「いいえ、今で十分と言うより、それでなきゃいけないと思ってる」
「適正な人数だという事?」
「そうね、人に物を教えるって大人数じゃ無理よね、教え切れない」
「お金よりも教育の質の問題だ、と言いたい訳だ」
「さすが、物分かりが良い事、敬服します」

「その辺のところを、詳しく知りたいけど駄目?」
「ダメ、人様に誇れるほどの事はしてないわ」
「でも、君が現在に至る過程とかを話すことで、人によっては、刺激を受ける」
「人がいるって言いたい?残念でした。そんな人はこの世には一人もいません」
「あの世には?」
「そうね、一人ぐらいはいるかも」
「冗談は置いといて、俺はいつも思う事があって、実行するようにしてる」
「どんな事?」
「世の中にはいろんな人がいて、こうしたい、ああしたいと思ってても出来ない」
「そうね、そういう人は五万といると思う」
「中にはやり方が分らない、相談する人もいない、なんて人も多いと思う」
「そうね」
「俺が実行してる事は、例え一億人に一人でも良いから、そんな人の支えになれば」
「……」
「いや支えにならなくても良い、何かのきっかけになればと、そればっかり考えて」
「行動してるって訳ね。私にもそうしろと言いたいのね?」
「そうなんだよ。君のその素晴らしい才能と経験を語る事で、一人でも触発されて」
「より良い方向に向かえばと?」
「そして、小さな幸せでもいいから掴んで貰えば、素晴らしい事と思わない?」
「……」
「俺も君も、大なり小なり似たようなことに刺激されて、今日があると思うんだ」
「あなたって、説得するのがお上手ね。段々その気になってくるから不思議よねえ」
「お、脈あり?」
「確かにあなたが言う通りよね、目には見えなくとも、誰かがやらなければと思う」
「じゃあ、決まりだね?」
「はい、じっくり考えて、またの機会にでも語りましょうか」
「やった!サンキュー」


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