長いようで短い人生 心に響く感動と共に生きれたら……
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◇ 公園の少女

旅立ち(2)
-公園の少女-
公園の右手の大きな木の下にベンチが二つ
手前のベンチでは老夫婦が談笑している

向こうのベンチには
犬を連れた中年の女性が
汗を拭き拭き
いかにもだるそうな顔で座っている
犬も長い舌を出して
はあはあ息をしてちょこんと座っていた

そのベンチの丁度反対側に
滑り台と砂場がある
木陰になっていて涼しげである

多分7歳か8歳と思われる
少女が砂遊びしていた

近づいてみる
こんにちわ!
何作ってるの?
少女は黙って
じっとこちらを見上げた

砂遊び楽しい?
しばらくして
少女は少し笑ってくれた
でも無言

一人ぼっち?
少女は小さくうなずいた
友達は?
首を横に振った

あのさ大きくなったら何になりたいの?
少女は立上って
こちらをじっと見つめていた

そして
いきなり走り出した

途中で振り返り
砂まみれの手を
胸のあたりで
小さく振った

つられて
こちらも手を振った

公園の片隅の足洗い場で
少女は手を洗う
遠く目に
砂まみれの中から
白い小さな手が現れた

ぬれた手を拭こうともせず
こちらを振り返り
両手を大きく左右に振った
満面の笑顔
何か言いたげだった

そして
小さく頭を下げて
小走りに立ち去った

もう振り返ることは無かった

小さな背に
真夏の夕日が注いで
その影が小さくなるまで
それほど時間はかからなかった

年月を重ねて
もしも
あの少女と再び出会うことがあれば
どんな言葉をかけてあげようか

きっと
素敵な女性になっていることだろう