エッセイ(25)
-母の涙-
隣の人からこんな話を聞いた。
弱音を決して顔に出さない母親ではあったが、
バスに乗り遠くに消えるまで私を見送った後、
母が一人泣いていたと言う。
それを聞いて母が老いたことを感じた。
それからというもの、
いつも母の近くにいてやり、
いろいろな話を聞いたり話したりした。
だが、
また去って行く我が子を眼の前にして、
さぞかし悲しい思いをしてる筈なのに、
子供の前では、
そんな素振りは微塵も見せない。
込み上げる気持ちを押し殺し、
満面に笑顔をたたえ、
私の目をじっと見詰めながら、
いつまでもいつまでも、
手を振り続けていた。
バスが去った後の泣いている母親を想像して、
私は母がふびんでならなかった。
「かあさん、……ごめん!」