出演者 ⇒ 小百合 ◇ 隆一 ◇ ナレーター(女)
ナレーター(女)>
小百合は意地悪そうに挨拶した。
隆一は、咄嗟に判断がつかなかったが、目の前の小百合の唇を見てやさしく笑った。
小百合の鼻を人差し指でつついた。
隆 一 > 「おはよう! 早いね」
小百合> 「たった今起きたところよ…… 重たい?」
(小百合は少し恥ずかしそうであったが無邪気に笑って言った)
隆 一 > 「いや平気だよ。さゆりは軽いから、そのままでいいよ」
小百合> 「ええ、いいわ、お望みでしたらね」
(隆一は両手を小百合の背中に廻した)
隆 一 > 「綺麗だよ さゆり」
小百合> 「ふふ 嬉しい~ ねえ モーニングサービスないの?」
(小百合の眼が甘えていた)
(隆一は小百合の言ってる意味を理解した)
隆 一 > 「朝から食欲旺盛だね。もちろんありますとも、お嬢様」
小百合> 「ふふっ、じゃ、注文していい?」
隆 一 > 「はい、 どんなお味が宜しいですか? 甘いの? 辛いの?」
小百合> 「うーん、 そうね、どうしょうかなあ、蜂蜜みたいな甘いのがいいわ」
隆 一 > 「かしこまりました。お嬢様が目を閉じてる間に、お届けできると思います」
(小百合は目を閉じた)
小百合> 「これでいい?」
隆 一 > 「はい、結構ですよ、蜂蜜みたいな甘いものですね」
ナレーター(女)>
隆一は両腕に力をこめて小百合を抱きしめ、キスした。
二人は舌を絡ませ激しくキスした。……長いキス……
隆 一 > 「どうですか?お嬢様、お味の程は」
(小百合の身体に火がついた)
小百合> 「素敵なモーニングサービスね。気に入ったわ」
隆 一 > 「ありがとうございます。そちらのモーニングサービスは?」
小百合> 「食べたい?」
(小百合は隆一の唇に指を当てながら 意地悪そうに聞いてきた)
隆 一 > 「はい、どんなメニューですか?」
小百合> 「えーとね、ふふっ、笑わないでね」
隆 一 > 「笑いませんとも」
小百合> 「えーと………… やっぱり止めとくわ…… 恥ずかしい」
(小百合は言いかけて 恥ずかしくなったのか 少し赤くなった)
隆 一 > 「おやおや、お嬢様らしくもない、大丈夫ですよ、思いきって言ってみてはいかがですか?」
小百合> 「笑わないでね、えーと…… 名物長野のリンゴと、もぎたての桃とそれから……」
隆 一 > 「それからなんですか?」
小百合> 「熟れたイチジクです。ふふっ、どれも一級品です」
(小百合は 隆一の口に指を入れ、顔を真っ赤にしてクスクス笑いながら言った)
隆 一 > 「ほー、これは新鮮で美味しそうですね。全部いただいてもいいのですか?」
小百合> 「はい、今日は特別サービスメニューになっています」
隆 一 > 「どれからいただいたら宜しいのですか?」
小百合> 「特別順番はありません。お好きなものからお召し上がりください。但し条件があります」
隆 一 > 「条件ですか? どんな?」
小百合> 「お召し上がりになった感想を、それぞれのメニュー毎に2日以内に、レポートとして提出してください」
隆 一 > 「えっ、レポートですか?どうして必要なんですか?」
小百合> 「今後の参考にさせて頂きます。当店は、味には特別なこだわりを持っておりますから」
ナレーター(女)>
二人はさっきから吹き出しそうになっていたが、こらえきれなくなって笑い転げてしまった。
-少しの間-
小百合> 「隆一さん、さゆりね、とっても幸せよ。・・愛してるわ」
隆 一 > 「うん……」
小百合> 「さゆりは、もう一人じゃないのよね。いつも隆一るさんと一緒なのよね」
隆 一 > 「うん、そうだよ。 いつも傍に居るよ、ずーっと一緒だよ」
小百合> 「嬉し~い…… 隆一さん、好きっ」
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ナレーター(女)>
小百合は、嬉しそうに隆一の胸に顔を埋め、身体中を駆け巡る愛の余韻に酔いしれていた。
しばらくして小百合は、隆一の横になり指と指を絡ませて目を閉じた。
隆一は小百合に浴衣を掛けてやった。
冷蔵庫のジュースを二つのコップに注ぎ、一つを小百合に手渡した。
小百合> 「嬉しい! ありがとう!」
ナレーター(女)>
小百合が少し身体を起こし、右手で頭を支える格好で横向きになった。
隆一も同じように身体を横向きにして、小百合と向き合った。
隆 一 > 「さゆり…」
小百合> 「なあに?」
隆 一 > 「やっぱり、レポート書かなくっちゃだめかなあ」
(隆一は小百合の髪を撫でながら尋ねた)
小百合> 「どうして? 書きたくないの?」
隆 一 > 「うん、書いてもいいけど、一行でもいい?」
小百合> 「一行? あんまり美味しくなかった? 今日のモーニングサービス」
(小百合が今にも吹き出しそうである)
隆 一 > 「いや、そうじゃなくて」
小百合> 「どんなふうに書くつもりだったの?」
隆 一 > 「うん。どれもこの世のものとは思えない、素敵でとってもおいしい味でした。まさに絶品です。……ってね」
小百合> 「ふふふ」
隆 一 > 「だから一行で済むでしょ?」
ナレーター(女)>
二人は眼と眼が合って、可笑しくなって飲みかけのジュースを吹き出してしまった。
ジュースが二人の浴衣を濡らした。
小百合がシャワーを浴びてる間、隆一はカーテンを開け煙草を吸った。
今日は日曜日、窓一杯に秋晴れが広がっていた。
この地で随分多くの仕事をしてきた。そしてまたこの地で小百合と結ばれた。
眼下の街の建物の一つ一つが、あの公園が、あの川が、 そしてこのホテルが、
恐らく脳裏に焼き付いて離れない強烈な想い出として、いつまでも残ることだろう。