長いようで短い人生 心に響く感動と共に生きれたら……
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◇ 別れの予感

孤独
- 別れの予感 -
ロケーション 「深夜の自宅」
出演者 ⇒ 奈緒美拓也ナレーター(女)
ナレーター(女)>
慌しい結婚式が終わって半年が過ぎていた。
奈緒美はフォトプレートの中で幸せそうに微笑む夫と自分の写真をジッと見つめていた。夫・拓也は自信に満ちた顔でウェデングドレス姿の奈緒美を抱きしめている。積極的な拓也に求められるまま結婚生活に踏み切った。しかし最近、奈緒美は時々ふと孤独に襲われるようになっていた。原因は分かっていた。拓也は単に奈緒美を支配したかっただけなのじゃないかと……拓也の言うがまま仕事も辞めて家庭に収まった。が、何かが違う……そう思った時、奈緒美の頬から涙がこぼれて落ちた。

奈緒美>「……お帰りなさい。拓也、怒ってるの?」
拓也 >「携帯に電話するな。そう約束しなかったか?!」
奈緒美>「ごめんなさい!そんなに怒らないで、だって、もうこんな時間よ……心配だったの」
拓也 >「つきあいがあるんだ。夜中の1時すぎくらい黙って待ってろよ。お前にいちいち監視されてちゃたまらないんだよ」
奈緒美>「どうして?……変わったわ……どうしてそんなに冷たく言うの?拓也は前はそんなんじゃなかった……あたしの何がいけないの?あんなに優しかったのに……幸せにするよ、淋しい思いはさせないよって言ってくれたのは、……あれはうそだったの?」
拓也 >「何だよ。いまさら何言ってるんだ。そのくらい、誰だって言うだろ?お前は、そう言われていい気持ちになれたんだろ。それでいいじゃないか。さぁ、来いよ。待ってたんだろ?」
奈緒美>「待って、いや、いや!放して……お願い」
拓也 >「ちっ、訳を言えよ、訳を。俺の何が気に食わないんだ」
奈緒美>「……拓也の、……拓也のYシャツ今夜も女の匂いがする。いつも甘い香水の匂いがしてる。なぜなの?毎日よ」
拓也 >「何だよ。毎日俺のシャツの匂い嗅いでるのか?!気持ち悪いことしやがって!はっ、お前がこんな愚かな女だったとは思わなかった。もう、うんざりだ」
奈緒美>「拓也、何処へいくの?行かないで、ごめんなさい。もう言わないから、許して、許して、行かないでよ、拓也、拓也……」

ナレーター(女)>
奈緒美と拓也の仲が急速に冷め始めたのは、結婚式が終わって暫らくたってからのことだった。奈緒美は最初の間はあまり気に留めなかった。ついこの間まで他人だったものが一緒に暮らすのに、いくらかのすれ違いはあるものと思っていた。しかし、拓也は奈緒美を従順な妻という枠に収めていれば、それで良かったのだ。新婚旅行の最中も、拓也の携帯メールの着信音と通話音がひっきりなしに鳴った。それは拓也の浮気相手達からの頻繁な連絡だった。
奈緒美が拓也を問い詰めはじめてからというもの、拓也は酔って帰り奈緒美の身体を求めたが、拒まれると奈緒美を殴りつけるようになった。そしてそれは次第にエスカレートしていった。
ある日、奈緒美は激しい悔恨の感情を抑えることが出来なかった。台所のシンクの淵を掴み天井を見上げながら、首を左右に激しく振った。目から溢れ落ちる涙が頬を伝って床にしたたり落ちた。しばらくじっと考えた。そして奈緒美はとうとうある決断をした。