先日、地場の大手の現場担当の社員が私のところに遊びに来ました。
私より若いのですが、以前から何となく気が合うといいますか、肌が合うといいますか、そんな感じの付き合いでした。
彼は挨拶もそこそこに、こんな話をしてくれました。
彼:「最近仕事するのが嫌になってきているんですよ」
私:「おや、どうして?何かあったの?」
彼:「はい、お客様に申し訳ないことをする自分がですねえ……」
私:「申し訳ないことって?」
彼:「はい。私としては現場を良くチェックして間違いのないようにしたいのですが……」
私:「うん」
彼:「どうしても出来ないんです」
私:「どうして?」
彼:「私は今、12棟の現場を掛け持ちして管理しているんです」
私:「えっ、そんなに現場持っているの?」
彼:「はい。現場担当者が少なくて仕方ないのですけどね」
私:「うん。でもちょっと多すぎない?」
彼:「そうなんです。ですから何もかもが後手後手になってしまって大変なんです」
私:「よくやるねえ!問題起きないの?お客さんとのトラブルとか」
彼:「ま、適当にごまかしていますよ」
私:「そりゃ良くないことだよ。ごまかすなんて」
彼:「でも仕方ないんです。全てが職人任せで場当たり的っていうか……ああ まずいよなあ」
彼は頭に手を当てて、いかにも悪いことをしている風でした。
私:「で、どうするの?」
彼:「はい。会社を辞めようかと思っているんです」
私:「えっ、どうして、そこまでしなくても。ましてこんな不景気なのに。辞めてどうするの」
私は一応彼の気持ちに同情して見せましたが、内心、この男意外とまともだなと思いました。
彼:「会社にも何回となく何とかしてくれと申し入れするんですが、聞く耳がないみたいです」
私:「うん」
彼:「さすがに精神的に参りました。もうこれ以上お客さんを裏切れないのです」
私:「だね」
2ヵ月後、彼はその会社を辞めて独立しました。