安くてそれなりの家はいくらでも存在するでしょうが、この『安くて』しかも『良い家』となるとそうはいきませんね。
ところで、この安くて良い家って、とても抽象的な表現だとは思いませんか?はっきりしたイメージが湧きませんね。
「安さは何と比べて安い?」
「良い家ってどんな家のことを言うの?」
こう質問されると、さ~て、どう答えたら良いだろう。なんてなってしまいますね。
そこで、ここでは、それを鮮明にするために、三つのテーマに絞り込んで考えて見ます。
簡単に考察してみたいと思います。なぜ簡単になのかと言いますと、このテーマを掘り下げていきますと、とてつもなく膨大な紙面を費やしてしまうからです。
それでは順次進めていきます。
▼ 家のコストについて
◇ 木造住宅コスト研究とはどんな研究?
出来れば本論に入る前に、まず 参考 木造住宅コスト研究 をご覧いただければ、より深くご理解いただけると思います。
この研究レポートは、月刊建築知識特集の構造別コストシミュレーションの木造住宅編を担当執筆したものです。
木造住宅のコストに関してあらゆる角度からシミュレーションしております。
文字がぎっしり書いてありますので、少々、嫌になるかもしれませんね。ま、軽く目を通していただければいいかと思います。
実はこれを発表したときに、全国の工務店さんから引き合いがあり、データを貰えないかという問い合わせが結構あったんです。
内容的には、かなり濃いものになっているかなと自負しています。
この中でも随所に、住宅のコストについて突っ込んだ話をしていますが、その中の家の規模と坪単価について、ここで改めて考えて見ます。
◇ 家の規模と坪単価について
家の規模、例えば30坪とか40坪とかの事ですが、この坪(面積)について考えた時に、概念的には延床面積のことを言います。
ところが家には玄関ポーチや吹き抜けがあったりベランダがあったりしますが、通常はこれらは床面積には含まれていません。
そこで、大抵の工務店やハウスメーカーは、これらの面積を入れたものを、会社によって呼び方はいろいろですが、一般的には施工面積と称して区別した考え方をしています。
当然、玄関ポーチや吹き抜けもベランダも、大工さんが造る訳ですので費用が発生します。
坪単価とは総工事費(これもどこまでをいうのかあいまいですが 後述)を、面積で除したものをいいます。 で、ここで、坪単価というものは、一体どちらの面積、つまり延床面積か施工面積の、どちらの面積で除したものなのかが問題となります。
通常、施工面積のほうが延床面積よりも大きくなりますので、当然施工面積で除したほうが坪単価は安く表示されることになります。
例えば2025万円の工事費を、床面積を40坪施工面積を45坪とした場合、
2025万円/40坪=506,250円、2025万円/45坪=450,000円 となって差額が56,250円もあります。工務店を含めたハウスメーカーは、概ねこの安く表示できる方法を採用しています。
つまり、チラシなどに表示される坪単価の表示は、大抵はベランダの面積などを含んだ施工面積で除した数値を表示しています。
確かに、この表示方法が合理的だとは思いますし、玄関ポーチや吹き抜けもベランダも費用が発生する訳ですので、坪単価に組み込むのはごく自然な考え方だと思います。
ところがお客様の方はそういう認識がない方が一般的ですので先ほどの例でいきますと、
「50万かあ~。 ちょっと高いんじゃないの?」
なんてことになりかねない訳です。
坪単価の話は邪道です
ほんとのことを言いますと、この坪単価の話は私は邪道だと思っているんです。
確かに一つの目安にはなりますが、的を得ていないとでも言いますか、とてもいい加減とは言いませんが、曖昧さが多分に含まれた考え方だと思っています。
分り易く言いますと、例えば同じ40坪の家で、片やごくごく平凡なデザインとかの造りで、片やリビングの天井が勾配天井で化粧の梁などがあったり、デザインも少し凝っていたりした場合、どちらが費用がかかるかは誰でも解ることですよね。
これを一律に坪いくらと言う訳にはいかないと思うんです。
次の例のような考え方も知っておくべきです。
例えば、30坪の家と40坪の家と、建物の仕様(仕上)などが全く同じだったとして、どちらが坪単価は安くなるでしょうか?いや、言い方を変えるとしたら、同じ坪単価で請負った場合、工務店はどちらのほうが儲かるのでしょう。 感の良い人は既にお分かりの筈です。
30坪の家でも40坪の家でも、ユニットバスやシステムキッチンは、通常それぞれ一ヶ所の筈です。ですね?
ですから、例えばユニットバスとシステムキッチンの合計金額が120万円だとした場合、30坪の家は、 120万円/30坪=4万円/坪 40坪の家は、120万円/40坪=3万円/坪 と、なりますね。
工務店は同じ坪単価で40坪の家を請負った場合、これだけで一坪あたり1万円も儲かる勘定になります。
これでお分りのように、同じ仕様の場合建物の規模が大きくなればなるほど、坪単価は下がらなければならない訳です。
ですから坪単価を一律に考えてしまうと、場合によっては大きな無駄な損失を被ることも念頭に入れておいたほうが良いと思います。
そもそも建物がいくらになるかなんてことを、坪単価で論ずるほうがおかしい訳で、やはり、一個一個の部品を積算し見積化して、初めてほんとの値段が出てくるのが当たり前の話で、その結果として、たまたま面積で除してみたら、坪単価がいくらになったという考えに立たない限り、いつまでたっても明朗な形にはならないと思っています。
新聞やチラシ等に坪285,000円とか300,000円とか、大々的に宣伝している会社があります。
建物仕様もそうですが、
・全ての建物規模でもそうなのか、
・施工範囲はどこまでなのか、
例えば、
・給排水工事はどこまでの金額なのか、
・電気工事はどうなのか、
・クーラーの配管は?
・カーテンやブラインドは?
等々、新聞やチラシだけでは決して分らない部分が数多くあります。
それぞれの会社の考えがありますので、このような宣伝方法や集客方法が良いとか悪いとかは言えませんが、少なくともそういう会社に飛び込んでみた方が、
「とてもじゃないけど頼む気にならない」
と言いいながら、半ばあきれ果てて私のところに駆け込むようなことでは、少々度が過ぎたやり方として、許容範囲を逸脱しているように思いますがいかがでしょうか。
▼ 良い家とはどんな家なのか
◇ 『良い家』についてのキーワード
あなたが考える『良い家』とは、どんな家のことをイメージしますか?
ここで『良い家』についてのキーワードを思いつくままに列挙してみます。
- デザインの良い家
- 間取りの良い家
- 住みやすい家
- 使いやすい家
- 明るい家
- 風通しの良い家
- 湿気のない家
- 頑丈な家(強い家・長持ちする家)
- 安全な家
- 安い家(経済的な家)
- 冬暖かくて夏涼しい家
- 省エネの家
- 雨漏りしない家
- シックハウス対策を施した家(健康な家)
- 設備の良い家
- オール電化の家
- バリアフリーの家
- 財産価値のある家
- 将来の変化に対応できる家
とりあえず19個のキーワードになりました。
一つ一つは、そうありたいという気持ちも含めて、ま、納得できるものばかりだと思います。
これを関連するキーワードをまとめてみますと、おおまかですが次のようになります。
- デザインの良い家
- 間取りの良い家、住みやすい家、使いやすい家、バリアフリーの家
- 明るい家、風通しの良い家、湿気のない家
- 頑丈な家(強い家・長持ちする家)、雨漏りしない家
- 安全な家、オール電化の家
- シックハウス対策を施した家(健康な家)
- 設備の良い家
- 安い家(経済的な家)、省エネの家、冬暖かくて夏涼しい家
- 財産価値のある家
- 将来の変化に対応できる家
10個のキーワードに絞られてきました。
これらは全て重要なキーワードですが、敢えて私なりに優先順位をつけながらまとめてみます。
以下のようになります。
◇ 重要なキーワードの優先順位とその考察
- 頑丈な家(強い家・長持ちする家)、雨漏りしない家
- 安全な家、オール電化の家
- 間取りの良い家、住みやすい家、使いやすい家、バリアフリーの家
- シックハウス対策を施した家(健康な家)
- 明るい家、風通しの良い家、湿気のない家
- 安い家(経済的な家)、省エネの家、冬暖かくて夏涼しい家
- 設備の良い家
- デザインの良い家
- 財産価値のある家
- 将来の変化に対応できる家
なぜこういう順番にしたのかの説明が必要ですね。以下の理由です。
これもいろいろな考え方がありますので、人により優先順位は変わるとは思いますが……。
1.頑丈な家(強い家・長持ちする家)、雨漏りしない家
地震や台風にもろい家に住んでいると、いつも不安な気持ちで日々を送ることになります。
勿論地震の規模の予想は出来ませんので、どこまで丈夫にすればいいの?ってことになりますが、出来るだけ強く長持ちする家がベストです。
以下も読んでおいて下さい。
参考 家づくりの基本的な考え方
雨漏りも嫌ですね。
最近では余程のことがない限り雨漏りする家は無いかもしれませんが、デザインを凝るが余り複雑な屋根形状にした家は雨漏りし易いですから、屋根形状は「シンプル イズ ベスト」を心掛けたほうが良さそうです。
デザインの満足さよりも雨漏りの不愉快さのほうがウェイトとしては大きいと思います。
新築したばかりの家で雨漏りした時のやるせなさは、経験した人でないと分らないかもしれません。
2.安全な家、オール電化の家
「安全」とは何から安全?つまり家を守り自分を守ってくれるかという事です。
火災に対して安全
自ら火災を起こしてしまう場合と延焼による火災が考えられますが、いずれにしても最近の家は法的な規制が厳しくなり、火災に対しては心配しなくても良いくらいに安全になりました。
最近自然志向とか回帰とかの考えで、内部に木製の板を張った家を良く見かけますが、これらの建物は一旦火災を起こしますと、猛烈な勢いで火が家中を回ってしまいますので注意が必要です。
最近は燃えない板が開発されて、家のリビングや台所でも使用できるようになりました。
この板だと安心ですね。今のところ価格は相当高いですが検討に値すると思います。
また、いわゆるオール電化の普及に伴い、IHヒーターの普及は目覚しいものがありますが、一つには台所における安全性が注目された結果だと思います。
泥棒が入りにくい家の造り
泥棒などの不審者の侵入を防ぐセキュリティー技術は近年急速に発達してきました。
サムターン廻しとかピッキング対策用の建具の開発、防犯カメラや防犯インターホン、警告照明器具等々、映像通信技術の進歩などで、セキュリティー性能が格段に向上してきたことはとても喜ばしいことだと思います。
台風のときの飛来物に対する安全
強い風にあおられて瓦や木枝や看板などが建物の窓ガラスを直撃し、散々な目にあったなどの話を良く耳にしますが、この対策を新築時に考えておいたほうが良いと思います。
大きい窓は雨戸で防げますが、小さな窓や出窓などは難しいですね。
小さな窓は出来れば強化ガラスにするか窓格子を付ける事で防止出来ます。
もちろん意図的に各小窓にシャッターを付けることで防止出来ますが、コスト的に少々難があります。
出窓は強化ガラスで防止するか、シャッター雨戸付の造り付け出窓にするかどちらかだと思います。
透明ガラスなどの場合、部屋から外を見た時に格子が目障りで、雰囲気を損なうような場合も多々あると思います。
年に一度や二度の台風の為に目障りな格子は付けたくないと思われる方は、特注で開閉式の格子にするかシャッターを付けることで解決出来ます。ご一考を。
余談ですが、最近コストを掛けたくないという理由からだと思うのですが、並板ガラスの大きな窓に雨戸のない家や、小さな窓の格子のない家が散見されますが、優先順位を逸脱しているようで、少し考えさせられてしまいます。
3.間取りの良い家、住みやすい家、使いやすい家、バリアフリーの家
家は何と言っても使いやすく住みやすい家でないといけません。
同じ条件で、設計者に依ってこうも違うのかと思うくらい住み心地に差が出てきますから面白いですね。
このテーマには直接関係ないかもしれませんが下記も参考にしてください。
使いにくく住みにくい家にならない為にも、設計段階での打合せは十分過ぎる程しておいたほうが良いと思います。
バリアフリーについては、あえてここで申し上げることはないと思います。
それだけ、もう当たり前になってきたということですね。
参考 バリアフリーについて
4.シックハウス対策を施した家(健康な家)
これはもう言うまでもないことでしょう。下記のページを参考にして下さい。
参考 病気になる住まいと健康になる住まい
5.明るい家、風通しの良い家、湿気のない家
これもあえて説明の必要はないでしょう。こうありたいものです。参考までに下記を覗いてみてください。
参考 光と風と緑と
湿気対策はとても重要です。
湿気のために室内にカビが発生したり、それが原因で病気になったりします。
基礎の構造や木材の乾燥度のほかに、通気工法にしているかどうかなど、湿気を呼び込まないつくりを心掛ければ殆ど解決できる問題です。
基礎の構造では、床下からの湿気を防止する対策が重要です。
基礎については、参考 コチラを参照してください。
木材の乾燥については、出来ればKD材と言われるものをする事をお勧めします
参考 木材の乾燥度について
通気工法については、参考 熱環流がもたらす不思議 を参照してください。
6.安い家(経済的な家)、省エネの家、冬暖かくて夏涼しい家
関連記事は下記を参照してください。
参考 木造住宅コスト研究
参考 熱環流がもたらす不思議
参考 高気密高断熱
高気密高断熱の家にするにはそれなりのコストが掛ってしまいますが、省エネに繋がる訳ですので長い目で見ますと随分得になります。
7.設備の良い家
システムキッチンにしてもユニットバスにしても、またウォシュレットや洗面台、オール電化、太陽光発電等々、家の設備もいろいろな種類やグレードがあり、それなりに当然価格が違ってきますが、ここで言えることは、設備にお金をかけるのは程々のほうがいいということです。
電化製品等の設備品は、耐用年数がある程度はっきりしています。
その為、出来れば今世に出ている最高級な品物を設備しても、7~8年後には場合によっては取り替えなければならないこともあります。
ですから、経済的なことを考えるのであれば、程々の設備にしておいたほうが良いということです。
この考えには異論があるかもしれませんが、長年の経験上そう思っております。
8.デザインの良い家
デザインは個性ですので一般的な評価はもちろん出来ますが、どのデザインが良くてどのデザインが悪いということにはならないと思うんです。
建築家の押し付けのデザインが良いとも思えませんし、かと言って、どうでも良いなんてことも出来ませんので、最終的には、施主の思いに設計者としての思いをミックスさせたようなデザインになるのが一般的かなと思います。
ところが、設計者のこのデザイン性、こだわりに惚れてお願いしました。なんてこともよくある話ですから難しいですね。
9.財産価値のある家
例えば何かの理由で家を売らなければならなくなった時に、建物の実評価をどのように判断するかで、売買金額に大きな差が出てきます。
今のところ中古住宅の評価制度はあって無きが如くですので、あくまで見た目の判断になり易いですが、数年前から始まった性能保証制度は、ある程度これらの判断に良い結果をもたらすものと思われます。
これまで申し上げてきた1.~8.までのキーワードを確実に実施施工しておけば、財産価値としてはかなり高く評価されるものと思います。
10.将来の変化に対応できる家
これも大事なポイントです。
家族構成の変化などにより、家を増改築したい時に、構造上手を加えることが出来ない、出来たにしても、必要以上に費用がかさんでしまう、なんて事では現実問題として困ってしまいます。
将来の変化にフレキシブルに対応できる家を、設計の時点で考えておくべきだと思います。
▼ 家の価値について
家の価値とは? 一体何なのでしょうか。
これは、実はとても難しいテーマです。何故かと言いますと、価値感はそれぞれ一人一人の考えから、その程度や深さが自ずと違ってくるからです。
ある人にとっては、とても価値あるものと思っているものでも、他の人から見たらさほどでもないなんて事例は良くあるものです。
ですから、こと家に関する『価値のある家』と限定して捉えてみても、答えを見出すことはとても困難なような気がします。
しかし、少なくとも、これまで述べてきた内容を十分に満足した家だったら、一般的な捉え方としては『価値のある家』と評価しても宜しいのではないでしょうか。
いやむしろ、これは家づくりの最低限のクリアしなければならない価値だと思います。
その上で、自分の個性と思いを注入することで、さらにその価値が高まってくると思います。
忘れてはならないことがあります。
それは、どんなに価値のあるべく計画された家でも、現場で実際に家を造る技術、つまり施工技術とそれを管理する能力がいい加減ですと、決して『価値のある家』とはならないということです。
結論を言いますと、 これまで述べてきた計画上の家づくりに対する考え方と、実際の確かな施工力の両方を満足して、初めて『価値のある家』になります。
ですから、これから家を新築したいとかリフォームをお考えの人は、まず何をしなければならないのかと言いますと、上記の『価値のある家』を親身になって考え実現してくれる、良心的な『会社』や『個人』を探すことから始めなければならないということです。
このテーマの『安くて良い家を造るには』はここで終わりです。
最後までお読みいただきありがとうございます。